朝晩徐々に涼しくなってまいりましたがみなさまいかがお過ごしでしょうか?
このすえひろも体を冷やさぬよう体調に気を付けながら日々過ごしております。
近ごろ読んだ書物のなかからおもしろかったものやお役に立ちそうなものを備忘録を兼ねてご紹介いたします。劇場通いを再開し時間が減ったうえ歌舞伎に関係のない厚めの本を挟んでしまい、久しぶりの読書録となってしまいました。何らかのお役に立てればうれしく思います。
日本文化の核心「ジャパン・スタイル」を読み解く 松岡正剛著
編集工学研究所の所長で、「知の巨匠」との呼び名で知られる松岡正剛さんが3月に発表された講談社現代新書です。読書好きの方にはウェブサイト「千夜一冊」でもお馴染みかと思います。
日本にはこれまでに海外からさまざまな新文化=黒船が押し寄せたが、その都度日本的な編集、「ジャパン・フィルター」をかけて日本化を試みてきたのだそうです。
それについて松岡正剛さんが日本文化にまつわるインタビューなどでよく例示なさっているのは「たらこスパゲッティのおいしさ」です。
つまり、海外からやってきたスパゲッティにたらこと刻みのりをかけてしまい、それを美味しく仕上げてしまうという発想と実力こそが日本文化の真骨頂であるということかと思います。
この例にはなるほどと思います。「日本文化の核心」も大変読みやすい本で、独自の視点にあふれています。しかしながら、この一冊で日本文化の核心が分かるというものではありません。
日本文化はハイコンテキストで、一見、わかりにくいと見える文脈や表現にこそ真骨頂があるのです。
と冒頭でも語られているように、わかりにくいものが次々に登場して頭がカオス状態になるのだが、それでいてとてもよくわかるような、自分自身の中に蓄積されたさまざまな体験が繋がっていくような気がする…というなんともいえぬ快感を覚える一冊です。
内容としては、
「和する/荒ぶる」
「なぜ都落ちに魅力を感じるか」
「型と間と五七調」
「ブランドとしての家」
「かぶき者とバサラ」
「粋といなせ」
などなど16のテーマで古代から現代までの日本文化が論じられます、
このテーマだけでもお分かりいただけるかと思うのですが、荒事と和事の対照は一体なんなのか、義経にまつわる演目がどうしてこれほど愛されてきたのか。など歌舞伎にまつわる考察も深まっていきます。
私自身、前までは歌舞伎は特別ですごい、日本文化は特別ですごい、と漠然と思っていたのですが、様々な本にふれ自分で考えれば考えるほど、取り立ててそうは思わなくなりました。
歌舞伎もまた、一言ではとても表現できないようなよくわからないものであって、今見ている芝居には西洋文化や西洋の思想も含めたさまざまな要素が含まれごちゃごちゃと混ぜ合わせられている混沌であるなと思うのです。
むしろその混沌があれほどが美しく成り立っていることこそが驚くべきことであるし、おもしろいところなのではないかなあと感じはじめたところで出会った書籍であったので、運命的なものを感じました。
至らぬ頭ゆえ一度では吸収しきれませんでしたが、何度も読んでその都度考えを深めていきたいと思います。
またこれは余談ですが松岡正剛さんは吉右衛門さんと早稲田大学時代の同級生であるそうで、吉右衛門さんの中村萬之助時代のエピソードが少しだけ書かれていました。日本の「まなび」の在り方を論ずるくだりで、これは歌舞伎の型にもいえることだなあと思われました。
ご興味お持ちの方にはぜひにとおすすめいたします!