こんばんは!
今年も顔見世の京都を旅しておりました。
今日は芝居の前に、南禅寺へ参りました。
南禅寺といえば三門。
吉右衛門さんを最後に拝見した演目「楼門五三桐」ゆかりの地です。
朝の静まり返った三門を前にすると、歌舞伎座の一階から吉右衛門さんの五右衛門を見上げているような感覚に陥り、セリフまでもが聞こえてくるようでした。
歌舞伎の舞台はここまで大きくないと思いますが、吉右衛門さんのいる楼門は三階から見てももっと大きく見えたように思います。
「絶景かな、絶景かな。」
まさにその景色が広がっていました。
今日はあいにくのお天気であり、紅葉も桜も見えませんが、五右衛門の視界を想像するには充分な美しさでした。
吉右衛門さんは楼門の大道具の上から、どんな景色をご覧になっていたのでしょうか。
向けられた熱いまなざしの数々、あるいはイマジネーションのなかの絶景でしょうか。
歌舞伎役者の方々というのは、人によっては幼少のころから最晩年まで、東銀座のあの一角でひたすらに芸を磨きながら、人々の視線を浴び続けています。あたたかなものもあれば、厳しい目、好奇の目、あらゆる視線があることでしょう。
まなざしや光を一身に受け止める喜びはもちろん、そのおそろしさや孤独の深さを思うと、畏怖の念を抱かずにはいられません。
吉右衛門さんがこの世を去られて1年。
単なる観客のひとりであった自分にとっても想像以上に痛みが大きく、先月のご命日にもなかなか振り返る気持ちにはなれませんでした。
しかし南禅寺三門からの景色を自分の目で見て、吉右衛門さんのはるかな芸の道にじっくりと思いを馳せたいと思った次第です。
今朝は運良く三門の上にこのすえひろひとりきりになるタイミングがあり、良い時間を過ごすことができました。
改めて湧き起こるのはただひたすらに感謝の念、それに尽きます。ありがとうございます。