ここ数日、ただいま歌舞伎座で上演中の秀山祭九月大歌舞伎より「一條大蔵譚」のお話をしてきました。
今日も少しだけ、その補足をしたいと思います。
役柄についていろいろ
雅な公家でありながら阿呆と呼ばれるうつけ者で、後に勇ましく賢い本性を明かすという大変ドラマチックな仕掛けがなされています。武家の言葉と公家の言葉を行き来する、見どころたっぷりの役柄です。
初代吉右衛門が得意とした役で、当代吉右衛門さんも繰り返し演じられており、今回またこうして秀山祭で披露されています。
モデルがいます
そんな一條大蔵長成には、実在のモデルがいるのだそうです。
京都の一条通りに邸宅を構えた藤原長成という人物で、実際に清盛から常盤御前をもらいうけて能成(よしなり)という子をもうけたといいます。
この演目での長成はうつけ者ですが、実際の藤原長成がそのような人物であったというわけではなさそうですね。
名せりふ
「鼻の下の長なりと笑わば笑え、言わば言え。
命長なり、気も長なり、ただ楽しみは狂言舞」
本性を明らかにした大蔵卿が発する、長成の名をかけたこの言葉。
阿呆と呼ばれようともこの生き方を選んだ大蔵卿の心の内を思い、感じ入ってしまいます。
愚かしさと賢さを表裏一体に見せる技が光るこの演目ですが、演じられる方によっていろいろな味わいがあります。
今月ご覧になった方も、今月はかなわなかった方も、ぜひまたいろいろな方の大蔵卿をご覧になってみてくださいね。