一月はたくさんの劇場で歌舞伎が上演されていましたね♪
なかでも大きな話題を呼んでいたのが歌舞伎座の「勧進帳」!
新幸四郎さんの弁慶、吉右衛門さんの富樫、新染五郎さんの義経…
まさしくこの時にしか見られない、生涯忘れられなそうな珠玉の舞台でありました。
そんな勧進帳から歌舞伎の用語をひとつお話いたします。
簡単なご紹介ですが、なんらかのお役に立てればうれしく思います!
能舞台を模した大道具
勧進帳の舞台はとてもシンプルで、
正面には大きな松の木が描かれた羽目板があり、
舞台の左右には竹が描かれていましたね。
そして上手に小さな臆病口、下手には五色幕が懸けられています。
こうした大道具を用いて上演される演目は
松羽目(まつばめ)ものと呼ばれています!
このシンプルな大道具が模しているのは能舞台。
松羽目ものは衣装や演出にいたるまで、能狂言のものを模しています。
江戸時代の能は、武家の人々しか見られないエリート芸能でありました。
庶民の娯楽であった歌舞伎とは大きな隔たりがあったのです。
松羽目の演目は能への強烈な憧れと、反骨心が生んだ傑作なのかもしれません。
そんな松羽目ものの最初の演目こそ
江戸末期である天保11年初演の「勧進帳」なのであります。
しかも、江戸時代に作られた松羽目ものは「勧進帳」ただ一作。
明治時代になって巻き起こった「歌舞伎を高尚化しよう」という運動の中で
演目が続々と増えていったようです。
松羽目ものの代表的な演目はほかに
「船弁慶(ふなべんけい)」
「土蜘(つちぐも)」
「身替座禅(みがわりざぜん)」
「棒しばり」
などがあります。
上演の機会も多いので、他の演目もぜひご覧になってみてくださいね!
観世清孝の笑い
余談ですが、渡辺保先生の著書『勧進帳』によれば
どうやら天保11年初演当時の勧進帳の松羽目は、
いまのように立派な風格あるものではなかったそうなのです。
正面の板は現在のような松の巨木が描かれたものではなくて、
小さな松がいくつか描かれた襖の絵を描いた幕をおろして
天井からは能舞台のように大きな破風を描いた幕を垂らしていたようです。
背景はぺらりとして、風が吹けばフワフワ揺れていたのかもしれません。
勧進帳の上演にいたる数十年前、
能の真似をしてお咎めをくらい上演禁止となった例があったため
「いやだなぁこれは能なんて全く意識していませんよ!」
という言い逃れができるようにしていたのだとか。
そんな勧進帳をこっそり見物した能の観世流宗家・観世清孝は
役者が登場する前に「プッ!」とふき出してしまったのだそうであります。
よほどの「まがいものっぽさ」が漂っていたのかもしれませんが、
様々な工夫を経て今ではぐっと洗練された松羽目の舞台は、
あくまでも能でない、歌舞伎であるからこその魅力にあふれています!
参考:新版 歌舞伎事典/勧進帳 渡辺保著