ただいま国立劇場で上演されている「梅雨小袖昔八丈」
数ある歌舞伎演目の中でも非常に有名なものですので、
この機会に少しばかりお話したいと思います。
何らかのお役に立てればうれしいです!
早ければ早いほどいい初鰹
これまで髪結新三についていろいろとお話して参りましたが、
肝心の「初鰹」をすっかり飛ばしておりました。
白子屋の手代・忠七さんをだまくらかしてお嬢さんのお熊さんを拉致、
コリャ身代金がたんまり入りそうだぞと気が大きくなった新三は、
鰹売りから初鰹を買い、ご近所さんから羨望のまなざしを向けられます。
この場面では、鰹売りによって見事にさばかれる鰹の小道具がとてもよくできていて
おもしろい見どころのひとつです。
メトロポリタン美術館:https://www.metmuseum.org
「松浦の太鼓」にも登場する宝井其角も
「まな板に 小判一枚 初鰹」と詠んでいるように、
江戸の町では初鰹がとにかく珍重され、高価で取引されていました。
なんと、二両、三両という値がついたこともあったようです。
時代によって一両の価値はさまざまですが、
鰹1匹20~30万くらいとイメージしても仰天してしまいますね!
すしざんまいの社長さんがマグロを高値で競り落とすのをテレビで見ても驚きますが、
マグロよりも小さな鰹に、江戸の人々はどうして大金をつぎ込んだのでしょうか。
江戸時代も鰹は初夏のころ、黒潮に乗って日本近海へやってきて、
鎌倉などでよく獲れたそうです。
鰹をはじめ、この時代の初物というのは
まずは神様にお供えしたり幕府の将軍さまに献上されました。
そんな偉い方々と同じものを、同じようなタイミングで食べる、
というのは、江戸の町の人々にとってはたまらない贅沢だったのです。
そのうえ初鰹には、
他の初物の10倍もの御利益があり、
できるだけ早く食べれば750日も長生きできる!
といういわれもあり、とにかく贅沢で縁起のいい食べ物とされていました。
そんな初鰹をとにかく早く、誰より早く食べたい!
という一大フィーバーが巻き起こり、
わざわざ品川の沖に船を出して鰹漁船に小判を投げ込む
「真の初鰹喰」と呼ばれるお金持ちまで現れたそうです。
そんな鰹ブームは食だけにとどまらず、鰹縞という縞模様の着物も登場したほど!
昔の人が季節の移ろいと旬の食材を存分に楽しんでいたことがよくわかります。
参考:美味にて候 八百八町を食べつくす/謎解き!江戸のススメ