ただいま歌舞伎座で上演中の四月大歌舞伎!
夜の部では「絵本合法衢」が通し狂言にて上演されています。
”片岡仁左衛門 一世一代にて相勤め申し候”と銘打たれており
仁左衛門さんはこのお役をもう二度とお勤めにならないということがわかっている
なんとも切ない思いに駆られる演目であります。゚゚(´□`。)°゚。
またとない機会ですのでこの演目について、
少しばかりではありますがお話いたします。
何らかのお役に立てればうれしく思います。
退廃の江戸末期から高尚な明治へ
時代の変化に一度は
その一では絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)にまつわる
基本的な事柄についてお話いたしました。
好評を博した初演で主な役を勤めていたのは
大学之助・太平次 五代目松本幸四郎
五月・お米 五代目岩井半四郎
孫七・弥十郎 三代目坂東三津五郎
与兵衛・うんざりお松 二代目尾上松助(三代目尾上菊五郎)
という方々でありました。
今では美術館に飾られている役者絵で見るようなスターのお名前ばかり!
さすが大作者・鶴屋南北であります。
メインキャストの4人が二役を勤めるという上演形態であったようですね!
全員が入り乱れて殺し殺され…なかなかハードなお芝居です(・_・;)
好評を博した初演のあとは
江戸時代の終わりまでたびたび上演されていたようですが、
明治時代に入りますと状況は一変します。
明治時代には、文明開化の波とともに庶民の娯楽であった歌舞伎を
高尚な芸術として格上げしようという動きが起こったのです。
となればこの絵本合法衢のようなアウトローな演目はあまり歓迎されなくなり、
上演がすっかり絶えてしまったのでした。
しかし大正時代、歌舞伎役者として初めて欧米に渡った
近代演劇のパイオニア的存在である二代目市川左團次が復活上演を試み、
第二次世界大戦後には八代目松本幸四郎がほぼ完全復活を実現したのでありました。
現代の私たちがこうして楽しく仁左衛門さんの絵本合法衢を拝見できるのも
江戸末期から近代へという激動の時代に
歌舞伎に関わった人々ひとりひとりの複雑な思いが絡みあってのことだと思うと
今回の一世一代がよりいっそうありがたく感じられるようです。
余談ですが、
人の妻であるお亀に横恋慕する大学之助
おりよを殺して手に入れる五十両
夫のため身売りするお亀
などの演出には「仮名手本忠臣蔵」のエッセンスが盛り込まれているそうです。
敵討ちにからめた南北のアイディア、さすがです!
参考:日本大百科事典・世界大百科事典