今月、歌舞伎座にて上演されていた八月納涼歌舞伎!
大人気の演目である第二部「東海道中膝栗毛」にて、
初めて歌舞伎をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
せっかくですのでこの機会に、
演目に登場した歌舞伎の演出用語についてごく簡単にお話したいと思います。
次回の芝居見物の際に、何らかのお役に立てれば幸いです!
暗闇の中をさぐりさぐり…
「東海道中膝栗毛」の五場目、赤尾太夫と弥次さんがお楽しみのところで
出てきた藤六やおさきがあれこれもみあいになっているうちに
うっかりろうそくを取り落してしまう…という場面がありました。
すると、急に音楽の雰囲気がゆったりゆったりとして、
ありとあらゆる登場人物がどこからともなく現れ、
宙を探るような動きで一歩…また一歩…と歩いては、
全員が無言のままにぞろぞろぞろぞろ…と繋がっていくという
なんだか不思議な演出があったと思います。
あの演出の事を歌舞伎のことばでは「だんまり」と呼びます!
だんまりが表しているのはまさしくその場が真っ暗闇であること。
無言のままに独特の音楽の中をスローなテンポで登場人物たちが行き交うことが
ひとつの様式として確立しています。おもしろいアイディアですよね。
古典の歌舞伎演目では、もっと少ない人数でだんまりをします。
お芝居の中でみんなが探しているはずのお宝やお手紙が
闇のどさくさでうっかり取り落してしまったり、
悪者の手に渡ってしまうといったアクシデントが起こることも多いです。
お芝居のせりふでは真っ暗闇のことを「真の闇」とよくいいますが、
江戸時代の闇というのは今よりもよっぽど暗かったのであろうと思うと
物語の重要なカギを握る要素として闇が使われ、
それが次第に見せ場と化していって、
おもしろい演出の型ができあがったというのもよくわかるおはなしですね。
だんまりについてはお話すべきことがまだまだありますが、
詳しいことはまたの機会に改めてお話したいと思います。
ぜひ他のお芝居もご覧になってみてくださいね!
参考:新版歌舞伎事典