ただいま歌舞伎座で上演中の
吉例顔見世大歌舞伎!
昼の部「十六夜清心」は尾上右近さんが七代目清元栄寿太夫として
浄瑠璃方に初お目見得という記念すべき舞台ですので、
この機会に少しばかりお話いたします。
芝居見物のたのしみのお役に立てればうれしく思います。
隅田川 早春の風物詩「白魚船」
十六夜清心(いざよいせいしん)というのは通称で、
外題は花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)と読みます。
心中する男女がでてくる物語というのは歌舞伎に限らず浄瑠璃などでも、
○○■■と女性と男性の名前を重ねて通称とする傾向にあるようです。
幕末の1859(安政6)年に江戸は市村座で初演されたこの演目。
真っすぐに世の中を渡り歩けない人々が盗みやゆすりなどを働き、
やさぐれながらも生きていく生き様を描いた作品群「白浪物」で人気を博した
名作者・河竹黙阿弥の作品であります。
今月上演されている部分の本当にざっくりとした流れは、
・遊女の十六夜とお坊さんの清心が良い仲になってしまい、
・清心は女犯の罪に問われてお寺を追放、十六夜はなんと身ごもっていることが判明、
・いっそ死のうと二人で川へ身を投げ心中したものの、
・十六夜は川で俳諧師に拾われ、
・川から上がった清心は出来心で殺人まで犯してしまいました
…というものであります。
渓斎 東都花暦 佃沖ノ白魚取:国立国会図書館デジタルコレクション
川に身を投げた十六夜は、俳諧師の船に拾われました。
この船というのは隅田川の早春の風物詩であった「白魚船」と呼ばれるものです。
隅田川下流にある佃島から永代沖あたりに船を出して篝火を焚き、
光に集まってきた白魚を四手網という道具で取るのです。
白魚は彼岸を過ぎて子を持つと味が落ちると言われ、
まだ肌寒い早春がいちばん美味しいわけです。
なのでわざわざ肌寒い時期にこの篝火の火を遠くから眺めてみたり、
船に乗って白魚を食べながらお酒を飲んだりするのが
江戸の粋人の春の楽しみでありました。
十六夜清心は芝居の上では鎌倉が舞台ということになっているのですが、
実は江戸の下町を想定して描かれているということがわかります。
参考文献:花鳥風月の日本史