今月歌舞伎座で上演されていた吉例顔見世大歌舞伎では、
歌舞伎役者の尾上右近さんが、七代目清元栄寿太夫として
浄瑠璃方に初お目見得なさいましたね。
そんな記念すべき舞台にちなみまして「清元」について、
ごく簡単にですがお話したいと思います。
今後の芝居見物のお役に立てればうれしいです。
ハイトーンボイスが美しい清元節
清元節は浄瑠璃の一流派の名前で、さまざまな流派のなかで最も新しいものです。
文化文政期から幕末にかけての退廃的な世の中のムードが表れた
艶っぽい世界が描かれています。
男性の声とは思えぬほど甲高い繊細な裏声や
ころころと転がすような独特の技巧が使われる華やかな音楽であります。
芝居の中では舞踊の伴奏として演奏されたり、
「他所事浄瑠璃(よそごとじょうるり)」という形態で演奏されることが多いです。
他所事浄瑠璃というのはなかなかにおもしろい演出で、
わざわざ芝居中に「おっ、隣では浄瑠璃のお披露目らしいな…」
などのようなセリフを登場人物に言わせて演奏をはじめることで、
ご近所で行われている稽古や演奏会から聞こえてくる浄瑠璃というていで演奏されるものです。
そうして風景の中から聞こえてくる浄瑠璃の詞が、
主人公の行く末や心情を表現していたりするわけです。
昔の人は本当に、かっこいいことを思いつきますね。
ここで見分けられます!
歌舞伎の舞台で演奏する浄瑠璃の流派は他にもありますが、
実は簡単にどの流派か見分けられるポイントがあります。
それは、浄瑠璃を語る太夫の前にある見台です。
へたくそな絵で恐縮ですが、清元節ではこのような細い一本足の黒塗りの見台を使います。
見台の形からも繊細な雰囲気が漂っています。
おすすめの演目
清元節はいろいろな演目で聴くことができますが、
特に美しいのは、「落人(おちうど)」という通称で知られる
「道行旅路の花聟(みちゆきたびじのはなむこ)」でしょうか。
出だしの「おちうど」という詞章がハイトーンボイスで語られるのですが、
本当に男性の声なのだろうかと驚いてしまうほどの高さで美しく、大変印象的であります。
高い声とはいえ、西洋音楽のテノールとは全く違った味わいで大変色っぽいです。
どうやら清元節の使われる演目と言うのは、
切なく先の見えない恋や不安のともなう恋路の物語が多いように思います。
清元節のもつ雰囲気と絶妙にマッチして、胸が絞られるようです。