ただいま歌舞伎座で上演中の
十二月大歌舞伎!
夜の部「阿古屋」は女形で最も難しい役の一つといわれるもの。
舞台の上で琴、三味線、胡弓を実際に演奏しながら複雑な心情を表現します。
Aプロでは人間国宝である玉三郎さんが
Bプロでは20代、30代の若手女形梅枝さん・児太郎さんがお勤めになっています。
大変貴重な機会ですので、少しばかりお話したいと思います。
芝居見物のたのしみのお役に立てればうれしいです!
重忠の斬新な尋問スタイル
阿古屋(あこや)は壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)という
全部で五段ある芝居のうちの三段目にあたる部分です。
壇浦兜軍記はもともと人形浄瑠璃の作品であり、
1731年(享保17)9月に大坂は竹本座にて初演されました。
これが評判を呼び、すぐに歌舞伎化されたということです。
本当は五段あるはずなのですが、
現在はもっぱら三段目の「阿古屋」(阿古屋の琴責)の部分が上演されるので、
「阿古屋」という呼び名で通っているわけです。
その二ではこのお話の前提と、冒頭の部分までお話いたしました。
景清の行方を詮議する場に堂々たる出で立ちで現れた阿古屋は、
秩父庄司重忠に景清のありかを白状せよと諭されるもこれを突っぱねました。
重忠は情にあつく知性もある立派なさむらいなのですが、
阿古屋の心は景清のためそんなさむらいの説得にも決して揺るぎません。
重忠はそんな阿古屋を試すために、「責め道具」を持って来るよう命じます。
その責め道具というのはなんと、琴・三味線・胡弓という三つの楽器でありました。
重忠のもくろみは、もし阿古屋が嘘をついていれば調べに乱れや曇りが出るはずだというもの。
阿古屋はまず最初に琴を、つぎに三味線、そして胡弓と
三つの楽器を重忠に命じられるまま演奏するのです。
もちろん阿古屋は強い女性ですから、
私は絶対に知りませんからねと演奏を始めるのですが
重忠も「二人の恋のなれそめ」や「最後に会った時のやりとり」など
阿古屋の心を揺さぶるような事柄を語らせて、
美しい音楽に乗せた心理戦が繰り広げるわけなのです。
阿古屋が胡弓の胸を絞るような切ない音色にのせて景清との恋の終わりをうたった時、
重忠は「もうやめよう、この音色には曇りがない、阿古屋の言葉に嘘はない」と
このつらい拷問をやめさせ阿古屋をいたわりましたとさ…
というのが大変ざっくりとした筋であります。
緊迫した空気のなかでとても静かに進んでいきますので、
初めてご覧になる場合はなかなか苦しい部分もあるかもしれませんが
浄瑠璃の詞なども耳を澄ませてみますと見るたび新たな気付きのある
素晴らしい演目だなと思います(´▽`)
参考文献:新版歌舞伎事典