ただいま歌舞伎座で上演されている二月大歌舞伎
今月の夜の部「名月八幡祭」は松緑さんとニザ玉のご共演という
非常に思い出深い芝居となりそうですので、
この機会に少しばかりお話したいと思います。
芝居見物の何らかのお役に立てればうれしく思います。
運命が変わる「ある晩」の巧みな演出
名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)とはそもそも、
1918(大正7)年8月に東京は歌舞伎座にて初演された歌舞伎演目であります。
作者は池田大伍(いけだだいご)。当時の名優・二代目左團次のために、
江戸の風情溢れる芝居を数々執筆していた人物です。
初演の際にも二代目左團次が主役の縮屋新助を勤めていました。
お話の筋は大変わかりやすく
・ビッグイベント深川八幡の祭を控えた江戸深川の街が舞台。
・自由奔放な深川芸者の美代吉には、船頭の三次という情夫がいる。
・三次はほぼヒモの状態であるし、明日は祭で派手な衣装を作りたいしで、美代吉には金がない。
・そんな美代吉に惚れてしまった、越後からやってきた純朴な縮屋の新助さん。
・美代吉は100両の金の工面を新助さんに頼んでみるのだが…
というような流れであります。
その日その日をおもしろおかしく暮らしている江戸の人々と、
土地に根差してコツコツと真面目に生きてきた越後の新助さんのコントラストが
非常に巧みに表現されている演目です。
近代に作られた芝居ということでセリフが聞き取りやすく、
人間描写もより複雑で奥行きあるものになっていますが、
個人的にもうひとつご注目いただきたいのが「照明」の効果であります。
魚惣のところで、また美代吉のうちで、刻々と日が暮れていくようすが
じわりじわりと暗くなっていく照明で巧みに演出されています。
こういった照明の使い方や暗転の演出は、
ろうそくしかない江戸時代にはできなかったことですよね。
スリリングな芝居のシチュエーションにもよくマッチして、
登場人物たちとともに、戻れない場所へとどんどん追い詰められていくようです。
近代に作られた新歌舞伎と呼ばれるジャンルの演目では、
照明が作る暗がりのためについつい眠くなってしまったりもするのですが、
名月八幡祭においては夕闇が非常に効果的で、
祭りの夜の一晩に観る者をぐっと集中させているように感じます!
参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎登場人物事典