今月上演されていた「名月八幡祭」にちなみ、
歌舞伎の演目にもたびたび登場する江戸のことばについてひとつお話してみます。
芝居見物のお役に立てればうれしく思います。
気風のよさで知られた深川芸者
名月八幡祭は、
越後からやってきた純朴な縮屋の新助さんが
深川仲町の芸者・美代吉に想いを寄せるも悪意なく踏みにじられてしまい
深川八幡祭の夜に惨劇が起こる…というお話。
江戸ッ子の風俗や考え方が巧みに練りこまれた演目であります。
美代吉はたいへん誇り高い芸者で、
「仲町の美代吉だよ!」といつも言っていましたけれども
この仲町というのは今でいう深川の門前仲町のあたりです。
江戸時代には富岡八幡宮の門前町として栄えたこのあたりは、
川が流れていて火事も少ないということで商人らが移り住み
川沿いなどにたくさんのお茶屋さんができ、遊びも盛んになりました。
そんな深川で三味線を弾いたり踊りを踊ったりという芸事に秀で、
なおかつ美しくお酒の席を華やかにするプロフェッショナルの女性達は「深川芸者」
江戸城から見て辰巳の方向にあったため「辰巳芸者(たつみげいしゃ)」
そして男性の衣服であった羽織を着てお座敷に出るような男勝りの「羽織芸者」
などと呼ばれるようになったそうであります。
気が強く、恋人にもガツンと言ってすごむ美代吉さんのようすからもわかるように、
深川芸者たちには男勝りな気風の良さ、意気といった独特の美学がありました。
男の人にしなしなと媚びるようなことはなかったそうで、
その身上については「芸は売っても色は売らぬ」などといわれます。
深川の花街はすでにすたれてしまい実際のところはわかりませんけれども、
想像するに非常にカッコいい女性達ですね!
現代ではセクハラやジェンダーといった問題が叫ばれていますが
江戸時代にはある側面では学ぶところも多いなあと思います。
深川芸者はほかに
「盟三五大切」や「心謎解色糸」「梅ごよみ」などにも登場します。
上演の際はぜひご覧になってみてください!