ただいま国立劇場小劇場で上演されている3月歌舞伎公演!
積恋雪関戸は上演頻度も高い人気の演目であり、
ぐっと春めいて桜も咲き始めた近ごろの陽気にもぴったりですので、
上演日数が残りわずかとなりましたが少しばかりお話いたします。
今回の補足や、次回の芝居見物のお役に立てればうれしく思います。
墨染桜はまもなく開花
積恋雪関戸(つもるこいゆきのせきのと)は、
1784年(天明4年)11月江戸は桐座にて初演された演目です。
顔見世狂言として上演された
「重重人重小町桜(じゅうにひとえこまちざくら)」という長い演目の大詰の部分で、
作詞は宝田寿来、作曲は初代鳥羽屋里長と伝わっています。
「関の戸(せきのと)」と呼ばれることが多いです。
大伴黒主が逢坂山の関守のふりをして天下調伏をねらう大友黒主が、
いろいろあって逢坂山の関にある桜の大木から出現した傾城墨染・実は桜の精に
その正体を見破られてしまう…というものです。
これだけでは何のことやらというところですが上演頻度もそれなりに高いので、
演目の詳しい内容については次回の機会にしたいと思います。
楊洲 周延 中村芝翫の大友黒主(The MET パブリックドメイン)
近ごろは桜もちらほら咲き始めましたが、
この演目でもモチーフになっている「墨染桜(すみぞめざくら)」という名の伝説の桜は
実は現京都市伏見区の「墨染寺(ぼくぜんじ)」で現在も命を繋いでおり、
本日つぼみが膨らみ始めたそうです!
ここから現在の墨染桜がご覧になれます↓
そうだ 京都、行こう。
https://souda-kyoto.jp/travel/sakura/index.html?id=0000482
墨染桜なる桜はそもそも、
平安時代の歌人・上野峯雄(かんつけのみねお)が、
藤原基経の死を悼んで
「深草の野辺の桜し心あらば 今年ばかりは墨染に咲け」と詠んだところ、
桜の木は本当に薄墨色の花を咲かせた…という伝説から
こう呼ばれるようになったそうであります。
本当なのかどうかはさておき、なんとも幻想的でほんのりと切ないお話です。
はるか平安時代からここにあると思われるこの墨染桜は、現在四代目とのこと。
小さな木のようですがこの先も長く命が繋がるよう願ってやみません。
上記サイトでの開花のお知らせが楽しみです!
そして墨染桜についてさらに調べてみますと、
なんとはるか遠く千葉県にまでその命が繋がっているとされているそうなのです!
京都から千葉ですから東海道新幹線でも足りない距離です。
なんでも、京都の墨染桜の枝をポキッと杖にして、
あの西行法師が千葉県まで歩いてきたというのです。
西行法師は山辺赤人と小野小町を弔って
「深草の野辺の桜木 心あらば亦この里にすみぞめに咲け」と詠み、
杖を置いて去っていったそうであります。
そしてその杖が芽を吹き、ここでも「墨染桜」と呼ばれるようになったのだそうです。
こちらも実に樹齢800余年という古木で、
現在も毎年春には元気に花を咲かせているようです。
複数の土地でこのような伝説が伝えられているのはなんだか不思議でおもしろいですね!
もしかしたら本当に火山か何かの影響で、
特定の桜が薄墨色に咲いてしまう現象が当時はあったのかもしれないなあ…と、
さらに気になってまいりました。
今年の墨染桜はどのような色でしょうか?開花が楽しみです!
参考文献:新版歌舞伎事典/ニッポニカ/京都市/まるごとe!ちば