歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい黒塚 その三 安達ケ原の鬼婆伝説

ただいま歌舞伎座で上演中の

四月大歌舞伎

夜の部「黒塚」は猿之助さんが約2年ぶりにお勤めになるもので、

なおかつ腕に負われた大怪我からご復帰されて初めてということで

大変注目を集めています。

この機会を記念して少しばかりお話したいと思います。

安達ケ原に伝わる鬼婆伝説

黒塚(くろづか)は1939年(昭和14年)11月に、

東京劇場にて初演された舞踊劇であります。

ざっっっくりとした内容としては、

①奥州安達原の野原にひとり暮らす老女の元へ旅の高僧が訪ねてくる。

②老女は人を恨み呪うようになった自分の哀れな身の上を、高僧に打ち明ける。

③高僧が来世での救いを語ると、老女は喜んで「奥の一間は決して見ないで」と言い残して薪を取りに出かける。

④強力がつい奥の一間を見てしまうとそこには遺体の山!老女は鬼女だったのである。

⑤僧の教えを受けて晴れやかな気持ちになった老女が、すすきの野原を歩いていると、強力がすごい形相で逃げてきた。

⑥高僧たちの裏切りを悟った老女は鬼と化し、食い殺そうと襲い掛かる…!

というものです。

 

能の黒塚という演目をアレンジしたものですが、

その黒塚にも下敷きにしている伝説があります。

それは「安達ケ原の鬼婆伝説」なるものです。

いかにもおそろしげですけれども、

一体どんなお話なのか調べてみました。

細かい点については諸説あるようですのでご了承くださいませ。

 

さて、昔々のこと…

京都のとあるお公家さんの屋敷に、

岩手さんという乳母がいたそうであります。

お姫様を大切にお守りしていた岩手さんは、

お姫様が生まれつきの病に苦しんでいることにたいそう心を痛めていました。

 

そんな岩手さんはある時、占い師からとんでもないアドバイスを受けます。

それは「妊婦の生き胆を飲ませれば治るであろう」というもの。

つまりお腹を切り開き、中の子供をどうのこうのせいという

非情におそろしい提案であります。

 

岩手さんは非常に忠義な女性でありましたので、

その通りにしてなんとか姫様を救わんと、

生まれたばかりの我が子を置いてはるばるみちのくへと旅に出ました。

 

そしてたどり着いた安達ケ原の岩屋を宿屋として、

妊婦がくるのを待ち続けて暮らし、何年も過ぎたある時、

ちょうどよい若い夫婦連れがようやくやってきたのです。

 

おまけに若妻は身重で産気づいて、

産婆さんを呼ばなければとご主人は出かけていきました…

 

いまだ!これでようやくお姫様を救える…!と、

岩手はここぞとばかり刃物を取り出して、

お腹の子もろとも若妻を殺してしまいます。

 

と、そこに目に入ったのが若妻が身につけていた守り袋。

なんと今殺したこの女は、京都へ置いてきた我が子だったのです…!

そしてお腹の子はまさしく孫、図らずも大切な肉親の命を奪ってしまったのでした…!

 

あまりの罪の苦しみに気が狂ってしまった岩手は、

やってくる旅人を次々に殺しては血を吸い、

やがて鬼婆と成り果ててしまったのだそうであります…

 

ここへ阿闍梨祐慶がやってくる…というのが、

演目で描かれている部分です。

完成形だけを見れば恐ろしい鬼婆ですけれども、

こんなに悲しい過去があったのですね…

 

参考文献:怪異・妖怪伝承データーベース/鬼と研究

今月の幕見席

公演もあと少しとなりましたので黒塚の幕見席はかなり混み合うことが予想されます。

上演ギリギリではなく、早めにお出かけになることをおすすめいたします。

演目の中には上から見ると大変美しい場面がありますので、

下のお席でご覧になった方にもぜひ一度上からの眺めをお勧めしたく思います。

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