今月歌舞伎座で上演されていた六月大歌舞伎!
昼の部では古典歌舞伎の名作が並ぶ素晴らしい狂言立てでありました。
そんな昼の部から、よく登場する歌舞伎の用語についてひとつお話いたします。
次回の芝居見物のお役に立てればうれしく思います!
とうとうたらりたらりら
今月の昼の部では、染五郎さんと松也さんの躍動的な舞踊で
客席が大いに盛り上がっていましたね!
演目の題名は「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」というものでありました。
厳かな空気に包まれた舞台に翁と千歳、そして三番叟2人が現れて、
とうとうたらりたらりら…という呪文のような言葉とともに
翁と千歳の格調高い儀式のような舞が静かに静かに始まり
三番叟による舞へと展開すると音楽も徐々にヒートアップ、
最終的にはリズミカルに舞台を踏み鳴らして舞い納める…という作品です。
実はこの三番叟(さんばそう)は一つの舞踊ジャンルとして確立していまして、
他にも「操り三番叟」「舌出三番叟」「二人三番叟」などさまざまな演目があるのです。
そもそも三番叟というのはいったいなんなのか?
ということについてお話したいと思います。
国立国会図書館デジタルコレクション/三番叟 一勇斎国芳
そもそも三番叟(さんばそう)とは、
能の「翁(おきな)」という演目に登場する老体の神のこと。
翁は国土安穏と天下泰平、五穀豊穣などを祝福する演目で、
「能にして能にあらず」といわれ、たいへん神聖なものとされているのが特徴です。
翁は「とうとうたらり…」ということばから始まりますが、
その意味は2019年の今も解読できていない謎だそうであります…
奇妙な音の響きになにやら畏れのようなものを感じます。
ストーリーはなく、役者は神様に変身して舞う儀式めいた演目で、
三番目に登場する三番叟の神は躍動感のある舞で座を清める
「揉之段」という部分を舞うそうです。
歌舞伎で揉之段での三番叟の躍動的な舞が受けたようで、
長唄、清元、などあらゆる音楽に取り込んで
時には操り人形のようにしたり吉原を舞台にしたりと、
おどろくべき趣向を凝らした作品が作られました。
そのようにアレンジしてはいても 三番叟の持つ祝祭感は受け継がれ、
お正月やこけら落とし、襲名披露などなどおめでたい場面で上演されています。
三番叟についてはもっともっといろいろなお話がありますが、
止まらなくなってしまいますので今回はこのあたりでしめたいと思います。
また三番叟物が上演された際にお話いたします!
参考文献:新版歌舞伎事典/大辞林/国立国会図書館