歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

広告

やさしい奥州安達原 その五 ざっくりとしたあらすじ④

ただいま歌舞伎座で上演中の壽 初春大歌舞伎

昼の部「奥州安達原 袖萩祭文」は、時代物の傑作として有名な演目であります。

今月は安倍貞任・宗任兄弟を芝翫さん・勘九郎さんがお勤めになっています。

義太夫狂言らしい悲劇もあり、歌舞伎らしい華やかさもありグッとくる演目ですので、

この機会に少しばかりお話してみます。

芝居見物のお役に立てればうれしく思います。

袖萩にふりかかる安倍家再興の謀

奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)は、

宝暦12年(1762)9月に大坂は竹本座にて初演された人形浄瑠璃の演目。

翌年に江戸で歌舞伎に移されました。

 

平安時代末期に陸奥の国で繰り広げられたいわゆる「前九年の役」のあとが舞台。

奥州に攻め入った八幡太郎義家への復讐を目指し、

再挙しようとがんばる安倍貞任・宗任兄弟の姿を描きます。

 

全5段にわたる演目でありましたが三段目にあたる「環宮明御殿の場」が上演されることが多く、

現在も「袖萩祭文」の通称で上演されています。

あらすじをお話しておりますが、上演のタイミングや配役などにより若干変わることもありますので、

ざっくりと内容を掴んでいただければと思います。

 

義太夫狂言では「太夫の語り+役者のセリフ=状況・役柄のことば・心情」

というような作りで物語が進んでいくため、

初めてご覧になる場合は全てを聞き取ることはなかなか難しいかと思います。

内容をあらかじめ押さえておきますと、どちらも聞き取りやすくなりおすすめです。

 

③では、袖萩が両親の前で祭文に乗せて涙ながらに思いを語る

まさに「袖萩祭文」の名場面の部分をお話いたしました。

父・直方からお前の夫は身分もわからないとんでもないやつだと言われた袖萩は、

いえいえ、私の夫はきちんとした筋の方なのですよ、

その証拠がこれに…と書付を見せることとなったのでした。

 

ふむふむなになに…とその書付を改めはじめた直方

なっ!これは…!むむむむむ…と顔色がみるみる変わり、

汚らわしい書付だ、いよいよもう会うことは叶わないぞ!と怒りながら

浜夕とともに奥へと入っていってしまったのでした。

 

一体どうしたことか全くわからぬ袖萩

どうかわけを聞かせてくださいなと懇願するものの、両親の答えはなし。

寒さに震えながら悲しみに暮れています。

 

袖萩の知らないそのわけというのは、こうであります。

実は、夫の筋目を示す証拠の書付に「奥州の住人 安倍貞任」と記されていたのです。

安倍貞任といえば直方にとっては憎き朝敵…

そればかりでなく、懐にしまっていた環宮誘拐犯の手がかりとなる書状が同筆であることまでわかりました。

直方は、朝敵であり環宮さま誘拐にまで関わっている男と縁組みした袖萩を、

もはや許すことはできない…という思いであったのであります。

 

そういったこととは露知らず袖萩は寒さのあまり、持病の癪を起してしまいます。

癪(しゃく)というのはお腹や胸に突然発作的に激痛が走るという病。

芝居に出てくる女性というのはなぜか「持病の癪」に苦しめられることが多いものです。

娘のお君は凍てつく寒さのなか着物を脱いで苦しむ母にかけてやり、必死に介抱します。

 

親への不孝を悔いる袖萩は、そんなお君の健気さにいっそう胸を締め付けられ…

一度は奥へ入った浜夕もまたたまらず、町人だったらどんなに良かったか…

武士の妻であるばかりに初孫にも会えず…と嘆きながら、

袖萩親子に打掛を投げてあげるのでした…

 

引き裂かれた家族の嘆き悲しみにクローズアップするのはこの場面までで、

ここから物語は安倍兄弟の謀略へと移り変わっていきます。

 

 

枝折戸の外で嘆き悲しむ袖萩母娘のもとへ、

なにやらいかめしい男がひとり歩み寄ってきました…

この男は、袖萩の夫 安倍貞任の弟・安部宗任袖萩母娘とは初対面です。

義家の命を狙うため、わざと捕らえられここに潜んでいたのであります。

 

夫の貞任と一緒に行方知れずになった息子の千代童が元気でいるのか、

袖萩宗任にまずそれを問うものの、非情にも既に亡くなっていると告げられてしまいます…

ここまで悲しみのオンパレードである袖萩に降りかかる不幸は、

これではまだ終わりません…

 

なんと宗任は、袖萩に懐剣を手渡して

安倍家再興という大願成就のため、今夜直方の首を取ってくだされ

さもなければ兄の代わりに離縁しますぞと言い放ったのであります…!

サァどうするどうする、というところで次回に続きます!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/日本大百科全書/金山町文化財 山入歌舞伎/義太夫協会

歌舞伎登場人物事典

公演の詳細

www.suehiroya-suehiro.com

Copyright © 2013 SuehiroYoshikawa  All Rights Reserved.