歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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本日千穐楽 歌舞伎座 吉例顔見世大歌舞伎 2021年11月

本日26日は歌舞伎座で上演されていた吉例顔見世大歌舞伎の千穐楽でしたね!おめでとうございます!

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「感動」の限界突破

本日はこのすえひろも第二部を拝見していましたが、とにかく感動的な千穐楽でした…

終演後もしばらく涙が止まらず、歌舞伎座を出て東銀座の駅あたりに至るまでウウッ…となっていました。きっと不審であったことと思います。。

千穐楽までご無事で上演が続いたこと、そしてなにより仁左衛門さんが長年望まれていたことが叶ったことが観客としてもうれしく、幸せな気持ちでいっぱいです。こうした瞬間に立ち会うことができたことに感謝しきりであります。

 

まずは一幕目の「寿曾我対面」ですが、こちらも本当に素晴らしかったです…

時蔵さんの十郎の柔らかなお顔からは内側にふつふつとたぎるような怒りを、巳之助さんの五郎の荒々しい態度からはやりきれない悲しみを感じ、兄弟は理不尽に親を失ったのだということが感じ取れました。舞台の上はリアルからほど遠い世界なのにです。

これまで寿曾我対面はあくまでも儀式的なものという視点で見ていて、二人に感情移入したことはあまりなかったのでとても新鮮でした。今回の上演が決められた様式から特に逸脱していたというわけではもちろんないと思いますが、自分自身の視点なのか、役者さんの力なのか、不思議とそのように感じました。

対面では朝比奈が好きなので、松緑さんの曲線的なお顔立ちとは朝比奈に合うんだなあと思いました。また巳之助さんの発声の、たとえば「合点だア」というようなときの「ア」がとてもかっこよかったです。またぜひ拝見したいです。

 

そして「連獅子」ですが、もう本当に、本当にもう感無量で、生きていてよかったと思いました…。

今日は前シテの仔獅子を谷底に突き落とした後の仁左衛門さんの表情をくまなく拝見していたら、仔獅子の姿が見当たらない不安、絶望、そして仔獅子の姿を今見つけたという瞬間までもが手に取るようにわかり、千之助さんの弾けるような足音が近づいてくるときの愛おしそうな表情もたまらず、この時点でもうボロボロと涙してしまいました。

今月は又五郎さんと門之助さんの「宗論」も本当におもしろかったですよね。ちょっとした動きや間合いがとにかくおもしろいのに、嫌味は少しもなく。ずっと見ていたいほど素晴らしかったです。世界平和を感じました。

 

後シテの獅子の精では、仁左衛門さんの毛振りが途中で何度かもつれてしまったのでハラハラしました。今月は4回ほど拝見しましたが、私が拝見したなかでは初めてのことで、お体が心配になりました。

しかしそのたびにご自身の手でそれをほどいて、また毛振りをなさるお姿に、私の体にも力が入り、自然に拍手していました。千之助さんの勢い溢れる毛振りと、何度も毛振りに挑まれる仁左衛門さんのお姿がたまらず、もうほとんどこのあたりでは視界が涙でぼやぼやとしてしまっていましたが、しっかり目に焼き付けたいのでぬぐうのに忙しかったです。

 

幕切れ、舞台中央で親獅子と仔獅子が向き合い、親獅子が足を二度踏み鳴らす部分では、きっといま千之助さんの目を見ているのだろうなとわかる眼差しで、人生をかけて芸に挑まれているご家族の素晴らしい瞬間を目撃したという思いで胸がいっぱいになりました。立ち会うことができ感無量です。

 

緞帳が下りてからも拍手は鳴りやみませんでした。拍手というのは不思議な行為ですよね。今日においては、胸いっぱいにあふれる感動を体で表現せざるを得ないという思いの集合体であったかもしれません。

桜姫、四谷怪談と拍手に答えてくださってはいるものの、基本的にカーテンコールというものは歌舞伎にはないものなので、今回は特にあれほどの激しい動きをなさっていたばかりで、またお出ましになって大丈夫なのだろうかと心配になりました。拍手をやめてしまったほどです。

 

緞帳に加えて定式幕も引かれたのでさすがにもう帰ろうとしていたところ、定式幕と緞帳が再び開かれ、緋毛氈が既に外された舞台に獅子の姿のままの仁左衛門さんと千之助さんが平伏されていて、あまりのありがたさでもう本当にどうにかなりそうなほど感動しました。どうにかなっていたと思います。

そのうえ、ただでさえ限界値まで感動しているのに、仁左衛門さんがてへへというような具合に頭をかきながらはにかんだ微笑みを浮かべられ、急激に「キャーッ!」となってしまって、ああもう死にそう立ち上がれないと思いました…

 

歌舞伎座の椅子に一生埋まって噛みしめていたいほどの感動でした…本当にこの時代この日に生きていてよかったです…今日は興奮で眠れそうもありません。明日が土曜で助かりました。

一生忘れられない時間をくださったこと、仁左衛門さんと千之助さんへの感謝の思いでいっぱいです。お伝えできる場などありませんので人知れずここにしたためたいと思います。本当にありがとうございました。京都の顔見世まで数日ですが、お体を大事になさってくださいませ。

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