ただいま歌舞伎座で上演中の三月大歌舞伎!
夜の部「助六由縁江戸桜」について、少しばかりお話しております。
なにかのお役に立てればうれしく思います。
成田屋の助六には河東節
今月の「助六由縁江戸桜」は河東節開曲三百年記念と銘打たれたものです。
河東節(かとうぶし)というのは、
助六が舞台へ颯爽とやってくる「出端」と呼ばれる部分に使われている古典邦楽です。
軽やかで華やかな味わいの河東節は歌舞伎音楽として使われる一方、
お座敷などでも楽しまれていて、魚河岸や商家の旦那衆などがお稽古をするなどたいそう人気があったのだそうです。
そんな江戸時代の流行音楽・河東節ですけれども、現在これを聞くことができる芝居は「助六由縁江戸桜」ただ一つということです。今月は大変貴重な機会なんですね!
「助六由縁江戸桜」の大道具は、吉原・三浦屋の赤々とした外観。
舞台正面に広く取られた格子には御簾がかけられており、裏側に河東節連中の方々が大勢並んでいるのです。
今月は幕開きに右團次さんが口上をお勤めになり、御簾内にずらりと並んだ河東節連中・河東節十寸見会(かとうぶしますみかい)の方々に丁寧に挨拶なさっています。
というのも河東節十寸見会には、成田屋御贔屓筋の方々がおいでなのだそう!
「助六由縁江戸桜」の上演が決まると、役者が紋付袴の正装で河東節十寸見会の方々に出演依頼の口上を述べるという習わしがあるようです。
その道のプロではない方が伴奏することを許されている唯一の演目なんですね。
御簾の内をよく見ると、女性の方もおいでです!
そんな河東節が演奏されるのも、じつは成田屋の「助六由縁江戸桜」に限ってのこと。
他の家でも助六を上演することはありますが、音楽や題名の表記などをそれぞれ変えているんですよ。
成田屋の助六ってなんだか特別で、お祭りのようなものなんだなぁとワクワクしてきますね。
團十郎さんの書籍やこちらの記事にも記されていますのでよろしければお読みください。
魚河岸にもごあいさつ
上演前のご挨拶は、河東節だけではありません!
代々の市川團十郎家の役者たちは助六を勤めることが決まると、
魚河岸の旦那衆のところに出かけ、引幕や下駄・江戸紫の鉢巻などを贈呈されていたのだそうです。
現代においても紋付き袴の正装で築地の魚河岸会へ出向き、江戸紫の鉢巻の目録を受け取るという形で伝統が守られています。
今月の助六をお勤めになる海老蔵さんももちろんこの慣習を守っておいでです。www.kabuki-bito.jp
團十郎さん・海老蔵さんがお勤めになる助六は
こうして沢山の方々が花を添えることでより一層輝きを増し、
「どうだーッ!」と言わんばかりの圧倒的な華を私たちに見せつけてくれます。
役者と町の粋なやりとりが江戸時代から今まで大切に受け継がれてきたからこそ、
いつ見ても底抜けにかっこいいのですね!