ただいま上演中の三月大歌舞伎!
夜の部「助六由縁江戸桜」のお話が続いていましたが、
今日は気分を変えて昼の部「渡海屋・大物浦」のお話をしたいと思います!
これまでのお話
渡海屋・大物浦は、三大狂言に数えられる名作『義経千本桜』の二段目にあたる場面です!
『義経千本桜』は源平合戦が終わったあとの世界が舞台になっています。
渡海屋・大物浦の場面は
壇ノ浦の戦いで敗れたはずの平知盛が実は生きていて、
源氏への復讐を果たそうと待ち伏せていたものの叶わず、
壮絶な最期を遂げる
というありさまを描いたものであります。
謡曲「船弁慶」などに取材した、大変重みのある場面です。
パブリックドメイン美術館より 歌川国芳「大物浦平家の亡霊」
2016年6月の歌舞伎座では、義経千本桜が三部制で通し上演されていました。
その際にお話していたものがありますので、あらすじの前にひとまずこちらをざっとお読みいただければと思います。
それでは、ざっくりとしたあらすじをお話してゆきたいと思います!
なお、この「渡海屋・大物浦」は演じる方の型によっていろいろと変わるようですので、細かいところや段取りに違いがあるかもしれません。
ここでは様々な書籍を参考に一般的なものをまとめますので、今月との相違があるかもしれませんがどうぞお手柔らかにお願いいたします。
ざっくりとしたあらすじ 前編
ここは摂津国の大物浦。
寒い風が吹きすさび、荒れ狂う海辺をイメージしてください。
都落ちした義経一行が九州を目指すべく、船出のときを待って船問屋の渡海屋に滞在している…という設定です。
無事に船出をするためには、よい天気・風向きを見極めなければなりません。
今はちょうど出かけている渡海屋主人の銀平は風を読むのがたいへん得意なのだそうですよ。
渡海屋では船頭さんや下女たちが忙しく働いていますが、
渡海屋の主人・銀平と妻・お柳さんの子どもらしきお安はその傍らですやすやと眠っています。
なかなか船も出ないので一間のうちより弁慶が出てきて、
眠っているお安をひょいと跨ごうとしますが、なぜだか足がビリビリとしびれてしまいました。
やや…どうやらこの子供はただ者ではないようです。
そんな渡海屋には、何やらいばりんぼうなお侍さんが二人やってきました。
この二人は相模五郎と入江丹蔵という名前です。
なんでも頼朝方から義経を探し出すよう命令され、はるばる鎌倉からやってきたのだそう。
渡海屋の中には先客である義経一行が潜んでいるわけですから、やすやすと通すわけにはいきません。
お柳さんがこの二人を止めて、ひと騒ぎになってしまいました。
とそこへ、帰ってきた渡海屋主人・銀平!
青を基調とした異国情緒漂う長い羽織ものに傘・高下駄という男伊達の出で立ちで、いかにも強そうな堂々たる風格です…!
二人がかりで「なんだお前は、えーい!」と襲い掛かりますが、
銀平はいとも簡単に刀をへし折りこてんぱんにして、ぽいと追い出してしまいました。
とても強くてかっこいい人なんですね。
追い出された相模五郎と入江丹蔵は負け惜しみを言います。
このセリフが魚の名前をたくさん盛り込んだ「魚尽くし」というおもしろいものになっていますのでご注目くださいね。
鎌倉方の追手も無事に追い払うことができましたし、そろそろ銀平は義経たちの船の準備をなければなりません。
お柳さんに船出の支度をと話すと奥へと入ってゆきました…
そんな銀平と入れ替わりに義経主従がぞろぞろと出てきて、
正体を知りながらよくかくまってくれましたね…と感謝の言葉を述べます。
出船を祝う盃を交わす義経と家臣たちですが、今日の天気が心配なようす。
そんな一行に「大丈夫ですよ、うちの主人は日和を見るのが本当に得意なんですから。うふふふ 」と楽しげに自慢話を始めるお柳さんなのでした。
それもそうかと義経たちは、船場へと向かい渡海屋を後にしました…
娘のお安を呼び寄せたお柳さんは、一間の銀平に声をかけます。
スーーッと襖が開き、現れたのは
真っ白い狩衣と銀の鎧兜に身を包んだ銀平の姿でした…!
これはいったいどういうわけなのでしょうか…!
中編に続きます!