歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業を見てきました! 2023年

今日は春分の日の祝日でしたね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

今日はWBCの準決勝の逆転勝利に日本中が湧いていました。このすえひろも早起きしてテレビで拝見しまして、試合のあまりのおもしろさ、ドラマチックさに感動し、勝利の瞬間には思わず泣いてしまいました。

ふりかえると試合全体がおもしろい物語の典型とされる見事な三幕構成であり、まるでよくできた映画を見ているような体験でした。これが完全なノンフィクションなのですからすごいですよね。フィクションに携わる者としては、フィクションの敗北を感じる出来事でした。今後も精進します。

それはさておき、本日は越谷へ出かけまして十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。

巡業公演のあたたかさ

十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業は、「舌出三番叟」「口上」「勧進帳」という狂言立てでした。

…なのですが、先ほども申しました通り今日はWBCの準決勝をテレビで観戦しておりました。家を出る段階では日本は残り数回で大ピンチの状況、どうしても最後まで見届けたい思いを捨てられず。結果、「舌出三番叟」「口上」をあきらめ、幕間から入場して「勧進帳」から拝見いたしました。すみません。

 

そんなわけで「勧進帳」の感想しかありません。今回は團十郎さんの弁慶、梅玉さんの富樫、児太郎さんの義経という配役でした。歌舞伎座での襲名披露で團十郎さんの弁慶は既に拝見していますが、梅玉さんの富樫がどうしても拝見したく。

梅玉さんの富樫はクールな官僚のような感じかなと想像をして臨んだのですが、これが想像以上に厳しい、堅固なる鉄壁の富樫でした。であるからこそ、義経を落とす決断が胸に沁み入り、お声の良さも相まって感動しきりでした。富樫ですからもう少しトーンの高いお声でお勤めになるのかなと想像していたのですが、やや低めのお声で重々しさが際立っていたように思います。

 

このような打ち破りがたき富樫であるからこそ、立ち向かう弁慶が引き立って見えます。特に感動したのは山伏問答の必死さです。梅玉さんの富樫との緊迫感のある対話が、セリフの応酬ではなくて人と人の対話として響きました。

團十郎さんのお芝居での客席の注目は、やはり見得の派手さに集まりますが、「抑制」の芝居の中にも魅力があるなと思います。また今回の團十郎さんの弁慶のお化粧は目元がシンプルでリアルな仕上がりでしたが、あの衣装に負けないお顔立ちの迫力がさすがでした。

児太郎さんの義経も、神々しさの中に武人のムードがあり良かったです。判官御手はもちろんのこと「いかなればこそ義経は…」のセリフがリアリティを持って胸に響きました。この「いかなればこそ義経は…」こそが、勧進帳という物語の核心ですものね。義経という存在の哀しさが感じられました。また去り際の花道で少し振り返っていたように見えたのが印象的でした。

 

巡業公演に出かけるのは久しぶりのことで、特有の盛り上がりにわくわくいたしました。歌舞伎役者という存在そのものがパッと場を明るくし、一挙手一投足に客席がわっと喜んでいるように見えました。歌舞伎座とはまた違う味わいだなあと思います。

会場のサンシティ越谷市民センターは初めて行った劇場でしたが、想像以上に見やすく、音もよく響く劇場でした。また巡業公演の際には覚えておきたいなと思います。

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