歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎座 壽 初春大歌舞伎 昼の部「當辰歳歌舞伎賑」「荒川十太夫」「狐狸狐狸ばなし」を見てきました!

2024年は激動の幕開けとなってしまいましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。毎日が何事もなく終わることのありがたみを感じさせられるお正月でした。

 

このすえひろはといえば、お正月のまとまった時間を使い、溜めに溜めた歌舞伎関連の新聞記事を整理しておりました。実に丸4年分も溜めてしまいまして、ようやく半分終わったところです。2020年からの記事ですので、新型コロナウイルスによる公演中止の報や懐かしい方々のお悔やみ記事なども含まれていて、一枚一枚読んでしまってなかなか進みません。

振り返ると本当に波乱だらけの4年間で、今も毎月公演が続いているのは関係者の方々のご尽力の賜物なのだと改めて感じます。今年も劇場からたくさんの元気をいただけるよう、私もお仕事を精一杯がんばります。

 

さて、先日のお話ですが、壽 初春大歌舞伎の昼の部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。

熱い五人三番叟

2024年最初の歌舞伎座公演 壽 初春大歌舞伎 昼の部は、「當辰歳歌舞伎賑」「荒川十太夫」「狐狸狐狸ばなし」という狂言立てです。忠臣蔵が題材だったり、ブラックユーモアの効いた演目だったりということもあってか、1月2日でしたがなんとなく年末感を感じる内容でした。

 

當辰歳歌舞伎賑」は五人三番叟と英獅子、二本立ての舞踊です。

五人三番叟では、中村福之助さん、鷹之資さん、歌之助さん、玉太郎さん、虎之介さんが三番叟をお勤めになりました。三番叟は五穀豊穣を祈る祝祭の踊りです。若々しいエネルギーが劇場中に満ちて、初春らしい良い時間でした。お若い世代の中でも舞踊に優れた方々が揃っているので見ごたえがあり、豊かな実り、未来の光を感じます。

ちょうど先程お話した過去の新聞記事にて、鷹之資さんが操り三番叟についてこのようにおっしゃっていたのです。

「父は生前、三番叟を『朝日が昇ってパーッと光が差すように踊りなさい』と言っていました」

まさにそんな、水平線から放射状にのびる陽光のような踊りでありました。一カ月間の舞台で皆様切磋琢磨され、千穐楽までに大きく成長なさるのだろうと思います。今年も皆様のご活躍が本当に楽しみです。

英獅子は、雀右衛門さんの芸者、鴈治郎さんと又五郎さんの鳶頭という配役でした。江戸時代の男女スター職業が揃って新年を祝う江戸情緒あふれる踊りです。三番叟からぐっと雰囲気が変わり、色っぽさあふれるたまらないひとときでしたが、雀右衛門さん鴈治郎さん又五郎さんを拝見できるのは今月はこの一幕だけというのが寂しいですね。時代物のお芝居でじっくりと拝見したいところです。

 

続く「荒川十太夫」は、2022年10月に歌舞伎座で上演された新作の再演です。神田松鯉さんの講談を、松緑さんの主演で歌舞伎化した演目であります。今回の主な配役は松緑さんの荒川十太夫、中車さんの堀部安兵衛、亀蔵さんの松平隠岐守定直というものでした。

映像作品のように時制を行き来する演出が巧みで、再び拝見でき改めて感動しました。「映像」というものを見たことがある時代の人間が作った現代らしい歌舞伎、それでいて江戸時代の人の心も動かしうる普遍性を持った歌舞伎だと感じます。話芸のもつ拡がりと舞台のもつ制約が見事に融合していて素晴らしいです。歌舞伎ファンの方だけでなく、講談や演劇、映画やドラマがお好きな方にもぜひぜひご覧いただきたい一幕です。

 

最後の「狐狸狐狸ばなし」は、題名の通りの男女の化かし合いを描いたブラックな喜劇であります。今回の配役は幸四郎さんの手拭い屋伊之助、尾上右近さんのおきわ、錦之助さんの法印重善というものでした。前回拝見した時は扇雀さんの伊之助と七之助さんのおきわという配役で爆笑した記憶があるのですが、今回は錦之助さんの魅力が光っていたように思います。

しかしなぜお正月の昼の部に?という謎セレクトではあり、久しぶりに拝見すると結構リアリティを持った恐ろしさを感じたと申しますか、正気になって引いてしまう箇所も多々あったのは、冬の寒さのせいかもしれません。季節の体感というのは結構重要な気がします。

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