歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい漢人韓文手管始 その一 江戸時代の「国際問題」

ただいま歌舞伎座で上演中の芸術祭十月大歌舞伎

夜の部「漢人韓文手管始」はあまり上演のない演目ということで

記念に色々と調べてみましたので、少しばかりお話したいと思います(人'v`*)

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※イメージです(長崎県の孔子廟)

通称「唐人殺し」

漢人韓文手管始(かんじんかんもんてくだのはじまり)は、

1789(寛政元)年に大坂角の芝居で初演された並木五瓶による作品であります。

 

この演目は、1764(明和元)年に実際に起きた殺人事件が素材となっています。

江戸の人は実際の事件をどんどんお芝居にしちゃうんだなぁ…と驚きますけれども、

この演目の題材はこれまでお話したような心中事件の芝居化などよりもずっとデリケートで、

朝鮮と日本の「国際問題」ともいえる事件を描いたたいへん珍しいものなのです。

 

その殺人事件というのは、

李氏朝鮮から来日していた朝鮮通信使の崔天悰(さいてんそう)

対馬藩の通辞(今でいう通訳のお仕事です)の鈴木伝蔵に殺されたというもの。

演目の舞台は長崎ですがこれはお咎めを逃れるための工夫であって、

実際に事件が発生した場所は大坂だったそうです。

 

朝鮮通信使たちが滞在していた北の御堂で起きた盗難事件で侮辱され、

大勢の人の前でこてんぱんにされたことを恨みに思った伝蔵は夜中に忍び込み、

槍を凶器にして崔天悰を凄惨に殺害した…と伝わっています(・_・;)

 

 

幕府が巨額をつぎ込み盛大にもてなしていた朝鮮通信使がそのようなことになり、

これは外交の一大事!と激震が走ります。

伝蔵は逃げおおせることができずに逮捕されてしまい、

武士という身分ながら切腹による死を許されず

斬首という屈辱的な死を遂げたのだそうです…。

 

この事件は人々の興味を駆り立て、3年後には早速歌舞伎化されています。

しかしこの時の題名は「世話料理庖丁(せわりょうりすずきのほうちょう)」という

鈴木伝蔵の苗字を露骨に入れてしまったデンジャラスなもの!(・0・;)

よくそんな題名を付けられたものだな…とこっちがドキドキしてしまいますが、

これはたった2日でお咎めを受けて上演差し止めとなったようです。

 

しかし狂言作者たちはめげずに様々な作品を創作!

並木五瓶が書いた「漢人韓文手管始」もそのうちのひとつで、

唐人殺し」「唐人話」などのいう通称で知られるところとなりました。

 

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