ただいま歌舞伎座で上演中の吉例顔見世大歌舞伎!
昼の部「雪暮夜入谷畦道」について、少しばかりお話いたします。
初めてご覧になる方や、歌舞伎ファンになりたての方のお役に立てればうれしく思います。
片岡直次郎
雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)
は「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」の中から
片岡直次郎と三千歳の悲しい恋の場面を切り取って
独立して上演している演目であるというのはその一でお話した通りです。
この「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」は
作者の河竹黙阿弥が講釈師・二代目松林伯円の講談
『天保六花撰(てんぽうろっかせん)』で語られていた
6人の悪党たちの活躍をもとにして作った物語です。
盗賊たちが活躍する「白浪物」の名作者として知られた黙阿弥が芝居にしたくなってしまうのも納得ですね。
原題でピンとくる方もおいでかと思いますが、
数寄屋坊主が悪事を働く「河内山(こうちやま)」の通称で知られる
「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」と同じ物語であります。
数寄屋坊主の河内山宗俊が活躍する筋を「河内山」
片岡直次郎・三千歳カップルのロマンスの筋を「直侍」
それぞれ独立した演目として上演されることが多いです。
実は、「河内山」の河内山宗俊と
「直侍」の片岡直次郎は悪党の兄弟分。
ふたりとも江戸時代に実在した小悪党なのです。
片岡直次郎は寛政5年、旗本渡り用人の次男として生まれました。
御家人崩れの男で、兄貴分の河内山宗俊とともに悪さをして入獄。
文政7年に釈放されてからもゆすりたかりなどを悪事を働いたため再び捕まってしまい、
最終的には小塚原の刑場で処刑されてしまった人物です。
兄貴分の河内山宗俊もまたとてもワルな茶坊主で、
なんと自宅の床柱ははりつけの刑につかう柱を用い、
ドクロ柄の着物を着ていたそうです。
もう見るからに悪いゴリゴリの方であったのだろうと思います…
おそろしいですね…
現代でもヤンキー漫画やアウトローが活躍する映画などはたいへん人気がありますが
近しい感覚だったのでしょうか。
現実的な存在になってしまうと非常におそろしいですが、
お話を見る分には痛快でおもしろいものですね。