ただいま歌舞伎座で上演中の
吉例顔見世大歌舞伎!
夜の部「法界坊」は比較的上演頻度の高い人気の演目ですので、この機会に少しばかりお話いたします。
芝居見物のたのしみのお役に立てればうれしく思います。
双面はドッペルゲンガー?
法界坊(ほうかいぼう)というのは通称で、
外題は隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)と読みます。
1784(天明4)年5月 大坂角の芝居にて初演され、
作者は奈河七五三助(ながわしめすけ)という方です。
法界坊という女もお金も大好きなとんでもない生臭坊主が、
ゆすりかたりに人殺しなど散々なことをして、
おばけになって出てきてしまうという仰天のストーリーであります。
法界坊ではこの「おばけになって」…という部分がかなり特徴的です。
法界坊はなんと、自分が口説いた女性・おくみさんそっくりの姿に化けて出ます。
しかも、自分が殺した女性・野分姫の亡霊と合体して両性具有なお化けとなったうえで、
おくみさんそっくりの姿に化けて出るのです!
もうなにがなにやら、斬新すぎる演出だと思われませんでしょうか。
この演出は、静御前の霊が菜摘女に乗り移ってしまい
二人の静御膳が踊りだすという能の演目「二人静」をルーツとする
「双面(ふたおもて)」とよばれるものです。
これはそもそも「離魂病」「影の煩い」と呼ばれる超常現象を
舞台の上に表そうと工夫したものだそうなのです。
「離魂病」「影の煩い」というものがなんだか恐ろしげな名前ゆえ
調べてみますと、ドッペルゲンガー現象のことでした!
ドッペルゲンガー現象というのは、自分自身と瓜二つの人間を見てしまうことであります。
現代でも「この世には自分と同じ人間が三人いて、見たら死ぬ…」という
怖い話の定番として語り継がれているものですが、
これは不思議なことに古代の神話の時代から世界中で語られているもののようです。
西洋では「double」中国では「離魂」日本では「影の煩い」とさまざまな言葉が存在していて、
霊魂が肉体から分離したのだ、死の前兆なのだ、などと信じられてきたようです。
世界中であるといわれると、もしかして本当なのかな…?という気がしてきますが、
このような不思議な現象をわざわざ舞台化しようという試みも
世界中で行われていたのかとなると疑問です。
調べてみたいテーマがまた増えてしまいました(´▽`)
参考文献:歌舞伎登場人物事典/世界大百科事典