歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしいすし屋 その四 ざっくりとしたあらすじ③

ただいま京都は南座で上演中の

南座発祥四百年 南座新開場記念
白井松次郎 大谷竹次郎追善

當る亥歳 吉例顔見世興行

京の年中行事 東西合同大歌舞伎

夜の部「義経千本桜」は三大狂言のひとつにも数えられる

名作として知られる演目ですのでこの機会にひとつお話いたします。

芝居見物のお役に立てればうれしく思います。

シャッフルされた鮓桶が…

義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)は、

1747年(延享4年)11月に大坂は竹本座にて初演された人形浄瑠璃の演目であります。

評判をうけてその2か月後の1748年(延享5年)に歌舞伎でも初演。

以来、実に270年にわたり愛されている名作中の名作です。

仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」と並んで、

三大狂言のひとつに数えられています。

 

<前提>

源義経は源平合戦で大きな功績を上げたがお兄さんの頼朝に疎まれ都を追い出されてしまった。

滅ぼされたはず平家のさむらいたちは復讐の機会を狙っている。

 

<ざっくりとした流れ>

鳥居前:くまどりの男が駆け抜けるド派手な場面

 ↓

渡海屋・大物浦:平家のさむらいの無念を描く格調高い時代物の悲劇

 ↓

吉野山:桜の中での美しい道行

 ↓

すし屋:お寿司屋さんのどら息子が起こす世話物的な味わいのある悲劇

 ↓

四の切(しのきり):親を思う子狐のファンタジー

 

今月上演されている「すし屋」の段は、

その少し前の場面である「木の実」から上演されています。

いきなり「すし屋」から上演されることも多いのですが、

木の実を先に上演することでよりわかりやすくなり

すし屋のドラマに厚みが増すという仁左衛門さんのお考えだそうです。

 

ですので、非常にざっくりとではありますがあらすじをお話しております。

②では、小金吾が討ち死にをしてしまい、

なぜかその首を権太のお父さんが持ち帰るという謎の展開まででしたね。

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さて、 再び場面は変わり、権太の実家のおすし屋さんであります。

看板娘のお里ちゃんと、恋仲の従業員弥助さんが働いています。

弥助さんはなんだか頼りなげな線の細ーい男性なのですが、

いがみの権太の妹であるお里ちゃんはしゃっきりとした女の子でとてもお似合いです。

どうやら今夜は二人の祝言をするようで、実にうきうきとしたようすであります。

 

と、そこへ、勘当され家出していたお兄さんいがみの権太がやいやいと家に帰ってきます。

いったい何をしに来たのかというと、お金をせびりに来たのであります。

お父さんの弥左衛門さんにはすでに勘当されてしまっていますから、

お父さんがいない隙を狙ってお母さんに泣きついてはお金をもらうという

どうしようもない男なのです。

 

こんなところを弥左衛門さんに見られては本当にまずいのですが、

間の悪いことに弥左衛門さんが帰ってきてしまいました。

慌てた権太はお母さんからもらったお金を、鮓桶に隠して家の奥に身をひそめます。

 

このおうちはすし屋さんですが握りずしではなくて、

桶の中に魚とお米を入れて発酵させる「なれずし」という料理のお店ですので、

鮓桶がいくつもずらりと並んでいるのです。

そのうちの一つに今お金が投入された、とイメージなさってください。

 

ここまですし屋の中はなんだか楽しい空気でしたが、

弥左衛門さんは緊迫感いっぱいで帰宅してきます。

なぜなら小金吾の首を、とある目的のために切り取って隠し持っているからです。

 

弥左衛門さんはこの首を並んだ鮓桶のうちの一つに隠しました。

おうちの中にずらりと並んだ同じ鮓桶の中には今、

お金が入っている物と、首が入っている物がある状態です。

 

弥左衛門さんは、従業員の弥助さんと話をしはじめますが、

ここで突然ふたりの関係性が逆転します。

従業員の弥助というのは仮の姿で、実は平重盛の長男平維盛。大変高貴な方だったのです。

弥左衛門さんはかつて重盛に恩を受けたことがあり、

すし屋で働かせるカモフラージュで維盛をかくまっています。

 

現在、鎌倉方の梶原平三景時による捜索がもうすぐそこまで迫っており、

切羽詰まった弥左衛門さんは維盛の身替り首として差し出せるようにと

小金吾の首を取ってきたわけなのでした。

 

その夜、驚くべきことが起こります。

なんとこのすし屋に偶然、維盛の妻子である若葉の内侍六代君が訪ねてくるのです!

 

弥助さんと結婚できると信じていたお里ちゃんでしたが、

あまりにも不毛な身分違いの恋であったことを知って潔くすっぱりと身を引き、

弥助さん家族3人を、安全な場所へ逃げさせるという機転を利かせます。

 

失恋して即、重大ミッション遂行というのはなかなかできることではありませんから、

お里ちゃんというのは可愛さと頭の良さを兼ね備えた素晴らしい女性だなあといつも感心してしまいます。

 

と、そんな立派なの行いに、大激怒したのがいがみの権太です!

 

ここまでのいきさつに聞き耳を立てていて、

何を逃がしてるんだ!あいつらは金になるだろ!とブチギレ。

大慌てで店の鮓桶をひとつ抱えて、後を追っていくのでした。

 

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国会図書館デジタルコレクション

 

先ほどもお話したとおりこの店にはいま、

お金が入った鮓桶と首が入った鮓桶の二つがありました。

 

権太が持って行ったのはどちらの鮓桶か…?

というところで、次回に続きます。

 
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