ただいま浅草公会堂にて上演中の
新春浅草歌舞伎!
松也さんを筆頭とする若手の人気花形役者の方々が
古典や新歌舞伎の大役に挑戦するという話題のお正月公演であります。
第一部で上演されている「源平布引滝 義賢最期」は、
松也さんが昨年に引き続いて仁左衛門さんのご指導のもとお勤めになっている演目です!
今回初めて歌舞伎をご覧になった方もおいでのことと思いますので、
この機会に少しばかりお話したいと思います。
何らかのお役に立てれば幸いです!
仁左衛門さんのアイディアが満載
義賢最期(よしかたさいご)は、
「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)」という人形浄瑠璃のお芝居の一部。
「源平盛衰記」「平家物語」を元にして作られた全五段のうち二・三段目の場面が
・二段目:義賢最期(よしかたさいご)
・三段目:実盛物語(さねもりものがたり)
として、それぞれ人気演目として上演されています。
のちに長野の北部で兵を挙げ、倶利伽羅峠の戦いにて圧勝、
平家を都から追い落した伝説のスーパー武将となる木曽義仲のお父さんである
木曽義賢の壮絶な死にざまをドラマチックに描いたものが、
その名の通り義賢最期(よしかたさいご)の場面です。
国立国会図書館デジタルコレクション
義賢の最期がどんなものであったかは、その二でお話しております。
この義賢最期の場面は江戸時代よりずーっと上演されてきたわけではなく、
昭和の時代まで長く上演が絶えておりました…。
実は、現在のような大迫力の大立ち回りが目玉の人気狂言として確立させた方こそ、
孝夫時代の片岡仁左衛門さんなのであります!!!
ですから、お若い世代の松也さんが仁左衛門さん直伝の義賢最期を
今月お勤めになっているというのは大変貴重なことなのです。
義賢最期の立ち回りの中でも特に客席が盛り上がり、
時にはキャ~!!という悲鳴まで上がってしまう超危険な技が「戸板倒し」
3枚の襖をコの字型に直立させて組んだだけの非常にアンバランスな板の上に義賢が立ち、
そのまま襖はバターン!と横倒しになって、その上に見事に決まる…!というものです。
襖はおそらく2m近くあるであろうという大きな板ですので迫力満点、
まるでスローモーション映像のように見える演出であります。
義賢最期にこの「戸板倒し」を取り入れたというのも、実は仁左衛門さんのアイデアだそうです。
また、満身創痍の義賢が最期の最期で両腕を開き「蝙蝠の見得」で決まった後で、
その形のまま手も使わず、まさしく命尽き果てたようにバタァーン!!と倒れ、
段をザンザンザーッと滑り落ちるという「仏倒れ」の演出も大きなみどころです。
これはものすごく痛そうで、前歯でも折ってしまいそうな恐ろしさがあり、
スリムな仁左衛門さんが胸からバァーンと板に向かっていくというのは
非常に危険だったのではないか…と想像します。
しかしながら以前、スカパー!衛星劇場で放送されたインタビューでは
「痛くないんですよ」とにこやかにおっしゃっていました。
なんでも、段の方にしなるような仕掛けが施してあり、
体がバウンドして痛くないように工夫されているのだそうです!!
確かに仏倒れをよくよく注意して見ますと、
少しだけバウンバウンと弾んでいるようです。
見事な技だなあ~と感激いたしました。
仁左衛門さんのアイディアがたくさん盛り込まれた義賢最期。
松也さんのお若さであれば、今後何度も拝見できることと期待しております。
とても楽しみです!
参考文献:とにかく芝居がすき/新版歌舞伎事典