今月浅草公会堂で上演されている新春浅草歌舞伎によせて
義賢最期のお話をいくつかいたしましたが、
芝居の中に登場したとある重要アイテムは他の演目でも見られるものですので、
少しばかりお話してみたいと思います。
義賢最期の内容はこちらに…
紅白→源平合戦の旗印
義賢が大切に守り、命をかけても平家に渡すまいとしていた「白旗」
国立国会図書館デジタルコレクション
これは現代でも小学校の運動会における紅組白組の組み分けや
年末のおたのしみ紅白歌合戦などに名残がある源平合戦のシンボルであります。
源平合戦の時代、白旗は源氏の旗印、赤旗は平家の旗印として用いられていました。
表向きは平家に従っているはずの木曽義賢が白旗を持っている…というところから
義賢の源氏再興への並々ならぬ思いが視覚的にも伝わってくるアイテムです。
この白旗は続く実盛物語でも非常に大切なアイテムとして登場。
なんとこの白旗を強く握った女性の腕だけが発見される、
しかも腕を失った女性の遺体と繋げると数分間女性が蘇生する…という
科学では説明のつかない衝撃的な展開になっています。
また奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)という演目では、
源氏の白旗と平家の赤旗のどちらもが登場し、
色鮮やかな長い旗を手に決まるというかっこいい場面を作り出していますよ。
そもそも紅白という色分けについて考えてみますと、
なんだか赤の平家の方が強そうな気がしてきませんでしょうか。
戦いに向けてわなわなと血がたぎるようなイメージがありますよね。
どうして源氏は白なのかなあ…と思って調べてみますと、
白地が示しているのは「清浄無垢」
そこに源氏の守護神であり軍神とされる「八幡神」の神号を書き記した
という説があるそうです。
なるほど、赤の強さとはまた違った、
潔くて崇高な志を感じるテーマカラーに思えてきました!
歌舞伎にはこの「源氏の白旗」とはまた別に、
香炉、刀、一軸などなどさまざまなお家の重宝が出てきます。
どういうわけかこれらは何よりも大切な品物のはずなのに、
紛失されたり盗まれたり、果てには質入れされてしまったりして、
そのもの一つのために人が騙し騙され、命さえも奪われたり…と
物騒なことがいろいろ起こるのですね。
そればかりではなく、この品物ひとつが無事帰ってきたというただそれだけで
めでたくお家再興が叶ってしまったりします。
そんなところもまた歌舞伎のおもしろいところだなあと思います。
参考文献:知れば知るほど面白い!家紋と苗字/新版歌舞伎事典/世界大百科事典