歌舞伎座で先日千穐楽を迎えた三月大歌舞伎!
夜の部「盛綱陣屋」は古典の名作として知られる演目ですので
これにちなんだ演出のことばについてひとつお話したいと思います。
\ご注進!ご注進!/
盛綱陣屋は、敵味方に別れてしまった佐々木盛綱・高綱家族の悲劇の物語でした。
子どもの小四郎を身替りにしてまで再起を図ろうとする弟高綱の心、
そしてそれに健気に応える小四郎の心を汲んで、
高綱の贋首を「本物である」とする盛綱のさむらいとしての姿と、
武家の女性としてかわいい孫をも殺さねばならない運命にある
盛綱・高綱の母 微妙さんの苦悩が描かれています。
胸を打つ場面はたくさんありますが、
幼い小四郎くんがおばあさんの微妙さんに切腹を促されて
お父さんお母さんに一目会いたいと命乞いをする場面は
なんとも切なくつらく思われます。
そんな悲劇的な場面のあとで、突如として花道からダダダダダと
大声を出しながら登場する役柄がありましたね。
そしてなにやら劇的なようすで肉体を巧みに使って何かを表現し、
慌てて去っていく…という独特の場面です。
この役柄が言う「ご注進!ご注進!」という言葉が、
そのままこの役柄やシーンの称として使われています。
「○○丈のご注進が素敵だった」「あのセリフのあとご注進があって」
というようなイメージであります。
多くはふわふわの乱れ毛が勇ましい八方割れと呼ばれる鬘を付けて、
四天と呼ばれる動きの激しい役どころに使われる衣裳をつけています。
どちらも非常に緊迫した状況である、激しく動き回る役柄である、
という演出に用いられるアイコンです。
それもそのはずで、ご注進は時代物の演目において、
「戦況を報告する」という役割を担っているのです。
盛綱陣屋ばかりではなく、さまざまな演目に登場します。
戦の世では当然現代のような通信手段があるわけではありませんから、
主君から重要なメッセージを託された使者が
命懸けで戦場を駆け抜けるというようなことがあったそうですが、
歌舞伎のご注進のようなド派手な出で立ちの方が大騒ぎしては
すぐに敵方にとらわれてしまいますね(´▽`)
リアリティというものをとっくに超越してしまい、
様式として美しくおもしろいというのが
歌舞伎の素敵なところだなあと個人的には思います!
参考文献:新版歌舞伎事典/戦国のコミュニケーション