歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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歌舞伎のことば:核心は切ない女心「クドキ」

今月上演されていた團菊祭五月大歌舞伎

夜の部「京鹿子娘道成寺」は女形最高峰の舞踊と言われる大作であり、

歌舞伎座では久しぶりの上演ということもあって注目を集めました。

そんな京鹿子娘道成寺から、歌舞伎の演出に関する用語を

一つご紹介したいと思います。

次の芝居見物のお役に立てれば幸いです。

見逃せない「クドキ」のパート

京鹿子娘道成寺は美麗な詞章と音楽にのせて、

恋する乙女の心の移ろいを様々に踊り分ける舞踊。

中でも、手拭いを手にしてしっとりと「恋の手習い…」と舞う場面は

一番の見どころともいわれています。

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このくだりは「クドキ」と呼ばれるパートで、

作品全体の核となるような重要な部分であります。

序破急の考え方でいいますとちょうど「破」の部分にあたります。

 

女形の舞踊の場合はたいていこのクドキの部分で、

胸をしぼるような切ない女心が表現されます。

 

京鹿子娘道成寺のクドキでは手拭いを巧みに使い、

そっと紅を塗って鏡を眺め、恋する自分の表情をうっとりと眺めて

色々と思いをめぐらすような女性らしい仕草が

ため息をついてしまうほど美しい場面であります。

 

ここで歌われているのは

「恋の手習いつい見習いて 誰に見しょとて紅鉄漿つきょぞ

みんな主への心中立て」という詞章。

化粧をするのもあなたのため…という、

恋しているときの女心が描かれているわけです。

 

女心といっても、女形の役者さんは性別的には男性であって、

その上で表現される女性の心というのはまさに

歌舞伎ならではの夢なのだろうなあ…と、見るたびにうっとりしてしまいます。

 

こうしてしっとり…と舞台上のテンションを一度ググっと下げたうえで、

どんどんとリズミカルなパートに入り、

最後にはテンションが最高潮に達するという緩急がたまりせん。

舞踊は単調なイメージを持たれがちですが、全体でとらえますと、

現代音楽にも負けない大変豊かなグルーブ感を持っているなあと思います。

 

クドキという言葉そのものは舞踊に限らず、

能や浄瑠璃、義太夫節、民謡などでも使われる日本の音楽の大切な用語であります。

使われるジャンルごとに意味合いはやや変わりますが、

切ない心情や慕情、詠嘆などを表現する場面として使われることが多いようです。

 

今風の言葉で申しますと、いわゆる「エモい」部分というようなイメージでしょうか。

日本の音楽の世界ではエモさというのをすごく大切にしてきたようです。

 

参考文献:新版歌舞伎辞典/文化デジタルライブラリー/

長唄「京鹿子娘道成寺」に摂取された謡‐旋律とアクセント‐

新版 歌舞伎事典

新版 歌舞伎事典

 
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