ただいま歌舞伎座で上演中の七月大歌舞伎!
体調を崩され休演なさっていた海老蔵さんが、
明日19日にご復帰なさるとのことが発表されました。
どうかご無理なさらぬよう、ご無事で千穐楽を迎えられますようにと願うばかりです。
この機会に昼の部「新歌舞伎十八番の内 素襖落」について、ごく簡単にお話してみます。
芝居見物のお役に立てればうれしく思います!
新時代・明治の松羽目物
新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし)は、
1892年(明治25)10月に東京は歌舞伎座で初演された演目。
初演の際の外題は「襖落那須語(すおうおとしなすのかたり)」でありました。
初演を手掛けたのは九代目市川團十郎。
この方は新たな時代の歌舞伎を作り出し「劇聖」とまで呼ばれた人物です。
九代目は、江戸時代までは庶民の大衆的娯楽であった歌舞伎の、
ある種の荒唐無稽さや下品さ俗っぽさを一新して、
高尚なる芸術へと格上げしたいという思いのもとに様々な活動に取り組みました。
具体的にはどうしたかと言いますと、
史実に基づいたリアリティのある歴史物語「活歴物」や
武士の楽しみであった能や狂言などを基にした舞踊劇「松羽目物」などを
次々に手掛けたのであります。
この素襖落もそれらの流れのうちのひとつで、
狂言の演目「素袍落」を基に、能の「八島」から「奈須語」を加えた
松羽目物の舞踊劇です。
作者はジャーナリストであり劇作家でもあった福地桜痴なる人物。
なんとこの方は、おなじみの歌舞伎座の設立者であります!
高い志を持つ九代目とタッグを組んで数々の劇を作りました。
ぶんぶんと毛を振り回すことで有名な「春興鏡獅子」などもこの二人によるものです。
福地桜痴が1889年(明治22年)に建てた歌舞伎座は、
規模も設備も日本一というそれはそれは素晴らしき劇場。
桜痴は、新時代の香りに満ちた高尚な芸術としての歌舞伎を、
九代目團十郎をはじめとする名優たちでいざ上演するぞ!
理想の歌舞伎興行を行うぞ!との熱き思いに満ち満ちていたようですが、
まもなく経営に行き詰ってしまうという憂き目を見たようです。
当時、高尚路線の芝居はなかなかお客さんに受けなかったようですけれども、
明治以降の歌舞伎を守り、支えてきた方々の奮闘ぶりは
歌舞伎を考えるうえでは欠くことのできない重要な歴史と思います!
参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎 家・人・芸