早いもので四月も今日でおわり…
今月は仁左衛門さんと玉三郎さんのご共演があり、とにかく芝居に忙しいひと月でありました。
夢のようでしたね…夢のようでした。夢だったのかもしれませんね。夢でしたと言われた方が合点がいくほどに、現実離れしていました。2024年の今もお二人の時間が続いていて、それを肉眼で見ることができるということがどれほど豊かで幸せなことか、噛みしめていました。
芝居見物に加えて、孝玉時代からのファンの方とお話する機会に恵まれ、当時の貴重なお話を伺うこともできました。インターネットに記すご了承をいただくのを忘れてしまったので内容は控えますけれども、当時の熱狂がそのまま心に響いてくるようで、涙があふれそうになったのが忘れられません。
これまで本で読んできた著名な方々の劇評の方が、内容的にはずっと詳しいのです。しかし、当時を知る観客の方から生まれてくる生の言葉というのは、言葉の数よりもずっと多くのものを伝えてくれるのだという発見がありました。
ということは、自分自身の拙い言葉も、後世の方になにかしらを伝えることができるのかもしれないと勇気が出た次第です。今後も一つ一つの芝居を大切に拝見していきます。
溝口健二「近松物語」
余談ですが先日、溝口健二監督の映画「近松物語」を見ました。
近松門左衛門の浄瑠璃「大経師昔暦」を川口松太郎が戯曲化した「おさん茂兵衛」を基にした作品です。そのような背景を持つ作品らしく、とにかく太棹三味線の表現が素晴らしくて、映画としてはもちろん、一編の浄瑠璃としても存分に楽しむことができました。
映像に太棹の音が入るだけで、スリルや情動が格段に駆り立てられるのが不思議です。これは生理的現象なのでしょうか。それとも自分の中に蓄積されている浄瑠璃の思い出がそうさせるのでしょうか。浄瑠璃に触れたことのない方にはこの効果がどのように響くのか、大変興味深く思います。映画として高い評価を受けているということは、恐らく浄瑠璃体験の有無を問わず響くものなのではないでしょうか。
三味線の音にドラマを乗せるのは、日本で培われた素晴らしい表現方法ですよね。
伴奏音楽としてだけではなく物語上の記号としても機能する、音楽でもあり言語でもある、非常に豊かなものだと思います。しかしながら、いま溝口健二のように映像で表現されたドラマの中で見事に使いこなせる人はどれほどいるのだろうかと寂しくも思いました。
プライムビデオにありますので連休のおともにいかがでしょうか。
近松物語
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