歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい素襖落 その五 ありがたき「素襖」

ただいま歌舞伎座で上演中の七月大歌舞伎

体調を崩され休演なさっていた海老蔵さんがご復帰され

どうかご無理なさらぬよう、ご無事で千穐楽を迎えられますようにと願うばかりです。

この機会に昼の部「新歌舞伎十八番の内 素襖落」について、ごく簡単にお話してみます。

芝居見物のお役に立てればうれしく思います!

「素襖」を賜り大はしゃぎ

新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし)は、

1892年(明治25)10月に東京は歌舞伎座で初演された演目。

初演の際の外題は「襖落那須語(すおうおとしなすのかたり)」でありました。

初演を勤めた九代目團十郎と、作者の福地桜痴のタッグによってつくられた

狂言や能のエッセンスをこめた高尚趣味な舞踊劇であります。

 

あらすじをざっくりとお話いたしますと、

1、大名がお伊勢参りを思い立ち、伯父さんも誘おうと考えた

2、太郎冠者は大名の使いとして伯父を訪ねた

3、残念ながら伯父さんは留守だったが、美しい姫御寮が門出を祝う宴を開いてくれた

4、お酒と踊り、そして姫御寮からのプレゼントですっかり良い気分になった太郎冠者は…

といったようなものであります。

狂言をもとにした演目らしく思わず笑ってしまうような愉快な内容です!

 

姫御寮から太郎冠者へのありがたいプレゼントというのは

演目のタイトルにもなっている「素襖」という衣服でした。

べろんべろんに酔った太郎冠者も、ケチな大名さまに見つかるまい、

どうにか隠して持ち帰らねば…と考えるほどうれしい品物だったようです。

 

素襖といいますのはそもそも、

室町時代に生まれた男性用の衣服のことであります。

単仕立ての上衣と袴、セットアップ式の服と想像しますとわかりやすいかと思います。

 

室町時代においては庶民も普通に着ていた衣服だったのですが、

江戸になりますと着用階級が定められ、

大名の家臣などが着る武家の礼服として用いられるようになりました。

衣服の順位としては直垂、次いで大紋、

そしてその下に素襖というランク付けであります。

 

 

身分の高い方から素襖を賜るというのは、大変誉れ高いことでありました。

室町時代にはお酒の席で素襖を引き出物として贈る

素襖引きというならわしもあったそうですが、

現代においても、芸事に携わる方や芸能人の方などが、

成功した先輩から衣服や小物などを譲り受けるようなことはあるようですね。

衣服のやりとりというものは昔から特別なものであるようです。

 

素襖落の大名某にとっては、

家臣である太郎冠者が褒められて拝領してきたのですから

むしろ大変喜ばしいことだと思うのですが、

やるまいぞやるまいぞ…という展開にいたるところがおもしろいですね。

 

素襖は素襖落のほかにも歌舞伎の舞台で着用されています。

有名どころでは「身替座禅」という演目で、

主人公の右京が着ている衣装がまさしくそれであります。

色とりどりのお花などをあしらい、美しく夢心地な装いに仕立ててありますが

これはリアルの追求というよりあくまでも衣装としての工夫のようです。

 

身替座禅」もまた思わず笑ってしまうような舞踊劇。

10月の御園座でも上演がありますので、ぜひにとおすすめいたします!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/日本服飾史/風俗博物館

新版 歌舞伎事典

新版 歌舞伎事典

 

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