先日歌舞伎座へ出かけて吉例顔見世大歌舞伎の昼の部を拝見してまいりました!
今月はひとつひとつの演目が長く、体感的には非常にボリュームのある公演でありました。
備忘録として、少しばかり感想をしたためておきたいと思います。
一幕目の「研辰の討たれ」
こちらは生では初めて拝見したお芝居だったのですが、大正時代の人々の視点がよくわかる演目で大変興味深かったです。
刀の研ぎ師からさむらいへ出世したものの屁理屈ばかりでさむらいの社会にはなじめず、
ご家老様を逆恨みしてだまし討ちにしてしまう守山辰次の役を染五郎さんが、
そのご家老様の子息として敵討ちをすべく辰次を追う兄弟の役を
実際のご兄弟である坂東彦三郎さん・坂東亀蔵さんがお勤めになりました。
辰次はなんとも面倒な人柄ではあるもののどこか憎みきれない奥行きのある人物でした。
いざ仇討ちというところで辰次がコミカルに命乞いをするさま、敵討ちの意義を見失い始める兄弟、
三人のようすを見ていた民衆が「助けてやりなよ」などと簡単に意見を覆すさまなどから、
人が人を裁くということがいかに曖昧なことかを見せつけられるようでした。
江戸時代に作られた演目では悪い奴をこらしめる、誰かのために敵を討つ、ということが
登場人物たちの最大のテーマとして貫かれているものがたくさんあるわけですが、
「研辰の討たれ」のような複雑な視点のものはなかなかないのでは思います。
大正時代までのほんの数十年の間に人々の視点はこんなにも多様になったのかと驚き入りました。
とはいえ、敵討ちを最大の目的としている「仮名手本忠臣蔵」などでも
さむらいの世界の「忠義」を見る目に虚無感のようなものが感じられ、
人々の価値観は常にぐらぐらと揺れ動いていたような片鱗が見え隠れします。
江戸から現代に至るまでの人々の思いに触れるという点でも芝居は貴重な資料ですね。
そしてなんといっても楽しかったのは「髪結新三」です。
私は菊五郎さんと左團次さんのコンビが大好きでして、
新三内のやりとりが楽しくてたまらず声に出して笑ってしまいました。
軽妙でありながらも砕けきっているのはなくて、
芯のピリッとしたその匙加減がカッコいいなあ~~~としびれておりました。
迷っておいでの方にはぜひ一度ご覧いただきたい一幕です。
しかしながら上演時間の長さには驚き入りました。
実に2時間20分、長めの映画くらいの尺であります。
これからご覧になる方はお手洗いや腰の痛みなど充分ご用心くださいね。
続いて夜の部も拝見いたしましたので、そちらは改めてまとめたいと思います!