歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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京都南座 京の年中行事 吉例顔見世興行の思い出  2019年12月

先日、京都祇園四条の南座で行われている

京の年中行事 當る子歳 吉例顔見世興行を拝見してまいりました!

演目が多く全幕については書ききれませんが、せっかくですので少しばかり感想をしたためたいと思います。

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年末の七段目は絶品

例年、一年のしめくくりの遠征には京都南座へ出かけております。

京都の冬は芯から冷えるような寒さであり、師走らしい空気をひしひしと感じます。

 

今年の顔見世では、

祇園一力亭を舞台とする「仮名手本忠臣蔵 七段目」がかかっていて

そのうえ仁左衛門さんが大星由良之助をお勤めであるため

これを楽しみに馳せ参じました。

 

寒いな寒いなと凍えながら京都の暮れの賑わいを通り抜け、

南座の空間の華やかさの中で見る七段目はまさに絶品というもの。

花に遊ばば…の三味線が聞こえてくるだけで心が浮き立つようであります。

 

そして仁左衛門さんの由良之助は何度見てもたまりません…

一体どこを見ているのかという話になってしまいお恥ずかしいのですが、

足の指の具合までもがこちらに語り掛けているようといいますか…

この方はただ酔っているのではない、なんらかを胸に抱えている…という

かすかに張り詰めたものを感じる寝姿の美しさなどは本当にもう、たまらぬものがあります。

 

そんなこんなで昼の部で色っぽさのあまりふらふらしてしまいましたが、

夜の部「堀川波の鼓」はもう、ちょっとこれどうなってしまうのか、

鼻血が出るわいなと思うほどに色っぽいお話でありまして、

酔った時蔵さんが梅玉さんの袴の帯をするっと解くさまなど、

ひょっとすると下品になってしまいそうなところ、お二人のようすがなんとも上品で、

キャーちょっとちょっとちょっととドキドキしながら拝見しておりました。

 

仁左衛門さんのような素敵な旦那様を持ちながら、

ああしたことになってしまうというのも全くわからないではない…という

絶妙な寂しさ、だらしなさ、弱さの表れがたまりません。

いやむしろ仁左衛門さんのような素敵な旦那様がいるからこそ、

こうしたことになってしまうののだ…という気さえしてしてくる、そのすさまじさに圧倒されます。

武家だからこその悲劇を描いているようでいて現代にも通ずる人間の弱さ、

哀しさを感じられる近松の作劇は本当に天才的だなと思います。

 

続く「釣女」は現代であればルッキズムとして批判されてしまいかねない内容でありますが、

伝統芸能の世界ではこうしたおおらかさがどうか残っていてほしいなあと思われます。

醜女の役をお勤めになる役者さんはにっこりとして愛らしく、

卑屈さなどは微塵もなく、そこが素敵だなあといつも思います。

醜女に関する芸談を読んだことはありませんが、

きっとあのかわいらしさの中には多くの工夫が凝らされているのだろうなと想像し、

男性が女性を演じるということの深みを一層感じるのであります。

 

話は飛びますが、昼の部「輝虎配膳」にて

吃音を持ちながらも琴の音に乗せて自分の思いを訴えるお勝を見ていて、

NHKの番組で吃音の方がラッパーとして活動し

ラップに乗せて思いを伝えている場面を見たことを思い出しました。

吃音の登場人物が節に乗せて話すという場面は「傾城反魂香」でも見られるわけですが、

歌う時には吃音が出ないというのは古くからお馴染みであったということに興味を持ちました。

盲目の方が平曲を伝えたように、浄瑠璃や唄を生業にして活動していた可能性もあり、

まだまだ広く知られていない事実があるのではないかと想像が膨らみます。

 

切は隼人さん橋之助さん千之助さん莟玉さんによる「越後獅子

若さみなぎるフレッシュな一幕で締めくくりとなりました。

これが妙に感動してしまうといいますか、

近ごろ自分に母性的ななにかが発動しはじめたのか、

若者たちが何かに懸命に取り組んでいる姿を見ているだけで、

妙に感動して泣けてくる…という現象が起こっております。

母性は様々なものに美しいフィルターをかけてくれるように思われ、

日々をより楽しめる良い能力を手にしたなあと思います。

 

今回昼夜通したため、8つの演目、実に10時間を超える長丁場の芝居見物となりました。

体はへとへととなりましたが、実に明るく爽やかな気持ちで南座を後にいたしました。

来年の顔見世はどんな演目が上演されるのでしょうか。

あまりに気が早いですが、今から妄想してワクワクしております。

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