昨今、漫画やアニメを原作とする新作歌舞伎が次々に上演されて話題となり、
これを機に歌舞伎にご興味を持たれた方も少なくないかと思われます。
一方で歌舞伎座などでは義太夫狂言の名作の上演が続いており、
歌舞伎にご興味を持たれた方にぜひおすすめしたいなあと思う次第であります。
これまでこのブログでも義太夫義太夫、名作名作、と申してまいりましたが、
この機会にそもそも義太夫狂言とは一体なんなのかといったことを一度お話したく思います。
①では基礎編と称して舞台の上に見える部分、
②では応用編と称して歌舞伎まわりと邦楽の成り立ちのお話をいたしました。
③ではそんな義太夫狂言をさらに楽しめるサイトや書籍についてご紹介したいと思います。
なんらかのお役に立てればうれしく思います!
必読のサイト「床本集」
太夫が見台に乗せている義太夫節の詞章が書かれた本を床本(ゆかほん)と呼ぶのですが、
「床本集」はこの床本をインターネット初期よりテキスト化して無料公開してくださっているサイトです!
平成13年に逝去された文楽三味線の鶴澤八介さんが1996年より運営なさっていたサイトで、
有志の方々により守られているという貴重すぎるデータベースなのであります。
時代を先取りするような取り組みに驚き入るばかりです。
もしもマメでマニアな性質をお持ちの方でしたら、
文章をワードやテキストファイルにコピぺするなどして適度に改行を入れ、
紙に出力したうえで適宜用語など調べながら書き込んでいくのもおすすめです。
文楽と歌舞伎では異なる部分がたくさんありますので、
舞台や映像と照らし合わせつつセリフ部分をマーカーで拾っていくなどするとなかなか興奮できます。
もっともここまでせずとも十分に楽しめますのでご安心ください。
おすすめの書籍
初心者向けの歌舞伎ガイドブック的書籍は書店にたくさん並んでいますが、
読み物として義太夫狂言および浄瑠璃の世界に触れられる本もあります。
伝統芸能のお堅いイメージから離れ、新しく軽やかな視点を提供してくださる本の中から、
おすすめのものを少しばかりご紹介いたします。
小野幸恵著『週刊誌記者 近松門左衛門』
タイトルや帯と内容が若干異なる印象を受けましたが、
義太夫節が生まれた時代背景などをさらっと押さえることができる新書です。
「曽根崎心中」「女殺油地獄」といった人気演目の現代語訳もあり、
詳しくはおいておいてまずはさらりと知りたいという方にはちょうどよいボリュームです。
「女殺油地獄」に関しては仁左衛門丈の芸談なども存在しますので、
そちらも併せてお読みになることをおすすめいたします!
あやつられ文楽鑑賞
人気作家・三浦しをんさんの文楽体験を綴った書籍であります。
歌舞伎でないではないか…と思われるかと思いますが、
浄瑠璃の世界を通じて深い沼に落ちていくさまは共感必至です。
三浦しをんさんが読み解く「仮名手本忠臣蔵」も必読であります。
橋本治著『浄瑠璃を読もう』『もう少し浄瑠璃を読もう』
『仮名手本忠臣蔵』『義経千本桜』はじめ義太夫狂言の名作の数々を独自の視点でひもといていくという、ボリュームのある書籍です。
研究視点では事実と異なる点があるとの指摘が見られるものの、
江戸時代の考え方のひとつの解釈に触れて視点を広げるには良質な書籍かと思います!
書籍をいくつかご紹介いたしましたが、ぜひ、用語等はご自身で調べつつ
あくまでも解釈のひとつとしてお読みください。
さまざまな解釈に触れつつ自分だけの視点を掘り下げることができるのも、
義太夫狂言の楽しみのひとつかと思います!
ここまで義太夫狂言について差し出がましくお話して参りました。
かくいうこのすえひろも長らく
「義太夫狂言はなんか難しいな眠くなっちゃうな」などと感じており、
役者さんの動きとセリフを追ってなんとなく内容を理解したような気になっておりました。
しかしながら、文楽公演を見たり床本を読んだり作家の方々の解釈を読んだりして
義太夫節の一語一句を噛みしめてから改めて拝見してみますと、
物語全体を貫くテーマや役柄の心がぐぐっと立体的に見えてくる瞬間があり…
数百年にわたり芸を積み重ね伝えてきた人々の思いが、
直接胸に刺さってきたかのような感覚を覚えたのであります。
ですので、歌舞伎に興味を持たれた方が増えたかもしれないこの機会にぜひご紹介したいと思いました。
お読みいただいた皆様が義太夫狂言をさらにおもしろく味わうことができますよう、
陰ながら願っております。