歌舞伎公演の中止に伴って空いた時間で、楽しみにして買ったまま手つかずの本や、読んだものの内容をすっかり忘れている本などをもりもりと読みまくり、気力を奮い立たせている昨今です。
備忘録を兼ねてそのなかから何冊かご紹介いたしますので、何らかのお役に立てればうれしく思います。
「興行師列伝ー愛と裏切りの近代芸能史」 笹山敬輔著
アイドル史や昭和芸人に関する本を執筆されている演劇研究者・笹川敬輔さんの新書。2020年1月16日に発行されたばかりのほやほやな新書ですので、書店ですぐに入手でき、そのままさらりと読むことができるのが魅力です。
帯の文言をご紹介しますと、
やるか、やられるか。それが興行の世界だ!
松竹、吉本、大映、東宝……血と汗と金にまみれた、創業者たちの仁義なき攻防戦。
「やるか、やられるか。それが興行の世界だ!」
思わず声に出して読みたくなるようなキャッチーなフレーズです!
帯のとおりこの本には、巨額の札束、反社会勢力、暴力事件、政治家との癒着…などのハードなトピックがどしどし登場し、たいへん刺激的です。
このすえひろなどは治安の悪い土地で育ったためかこういったお話にあまり動じませんし、裏事情を知ろうとも表舞台に熱狂できる特性を持っています。
しかしながら、歌舞伎をはじめとするエンターテインメントの世界には美しき夢を持ち続けたい、イメージが変わってしまうと見る目も変わってしまいそう…と感じられる方も中にはおいでかと思います。そういった方にはあまりおすすめできないかもしれません。
とはいえ、この書籍で紹介されている方々の並々ならぬエネルギーとスケールは尋常でなく、読了後にはなんともいえない感動が押し寄せてくるのです。私はどうしても娯楽を追い求める人の心に大きく突き動かされてしまうようです。
ラインナップをご紹介いたしますと、
第一章:十二代目守田勘弥
(江戸末期から明治維新後の歌舞伎興行)
第二章:大谷竹次郎
(松竹・歌舞伎座のはじまり 関東大震災・戦中・戦後)
第三章:吉本せい
(吉本興業のはじまり 民衆娯楽の創出、笑いのブランド戦略など)
第四章:永田雅一
(大映のはじまり 映画各社を席巻した興行師)
第五章:小林一三
(東宝・宝塚のはじまり 有楽町における松竹との劇場経営合戦など)
という構成。
歌舞伎関連については別の書籍も併せて読み改めてお話してみたいところですので詳しくは控えますが、最後に置かれています小林一三の風格というのは、やはり群を抜いているな…と実感いたします。あまり語られない小林一三の負の一面についても紹介されていますが、それでもなおその先見の明と懐の広さに感動を覚えました。
笠木シヅ子と吉本創業家、長谷川一夫と永田雅一など、雇い雇われという現代的な一言ではとても表現しきれないような複雑な人情のやりとりにも胸が熱くなります。
時代は変わり娯楽の世界が開かれ、より多様化してすぐにアクセスできるようになった一方で、世の中を席捲するような強烈なエネルギーを持った一大興行というものは失われ、おぼろげになっているように思います。
はからずも今はコロナウイルスによる影響で娯楽文化が制限され、その大切さを改めて感じられたタイミングでもありました。この本で紹介された方々の人生に触れることで、近代の民衆が渇望していた娯楽、それを生み出し守り育てた方々の情熱を感じて力をいただきました。
余談ですがこの書籍となんとなくリンクするのかもしれないぞと思い、書店の帰り道にまだ見ていない映画「グレイテスト・ショーマン」をレンタルしてきました。読了後のいまは、多分だけど全然違うっぽいな…と薄々感じております。いつ拝見しようかなというところです。
それはそうと、この本には巻末に【参考文献&ブックガイド】がついていて、各章の人物ごとにいくつかの書籍と著者からのひとことコメントが添えられているのがありがたいです!
次に読みたい本がいくつも見つかりましたので、また追って読んでいきたいと思います!