本日5月3日は、本来でしたら歌舞伎座十三代目市川團十郎白猿襲名披露興行の初日です!
この興行は五月・六月・七月の三か月にわたり続けられ、毎月東西の名優がぞろぞろと揃い、演目も豪華、とにかく盛大な盛大な襲名披露となる予定でありました。
こうしたにぎにぎしい襲名披露興行が行われるのは海老蔵さんが世間で話題を呼ぶ人気者であるということももちろんですけれども、そもそも「團十郎」という名跡そのものが歌舞伎界にとってたいへん特別なものであるわけです。
團十郎代々の詳しい功績や、それぞれの人生についてはお話がつきませんが、それは晴れて襲名披露興行が開催されるタイミングでするとしまして、今回はとにかくそのお名前が持つスペシャル感・なんかすごいぞ感についてごく簡単にお話してみます。
近ごろ歌舞伎に興味を持たれた方のお役に立てればうれしく思います!
今ここに 團十郎や 鬼は外
そもそも團十郎の名跡は、元禄年間に活躍した初代市川團十郎(幼名・海老蔵)に始まります。
この方が芝居で始めた全身を真っ赤に塗って悪者たちをやっつけるセンセーショナルなヒーローの姿、大きな目を見開いた姿というものが江戸の人々に大いに受けたようで、一躍人気者となります。
そんな初代團十郎の息子二代目團十郎も不動明王の申し子として人々の間でありがたがられるようになり、そのうち團十郎の名跡は悪いものを追い払ってくれる晴れ晴れしき存在、江戸を象徴する存在として喜ばれ、大きな求心力を持つようになっていったようです。
團十郎をほめたたえるキャッチフレーズからもそのすごさが伝わります。
たとえば「江戸随市川(随一)」「江戸の華」「江戸の飾り海老」などなど…なかなか強烈ではないでしょうか。
えっ「飾り海老」ってどういう誉め方…?とも思われますけれども、これは全身真っ赤なヒーローの姿で、ぴんぴん跳ねるように悪者をやっつけていたさまがお正月に飾る伊勢海老を連想させたから…などと考えられているようです。とはいえすごいセンスです。
中でも其角の句が強烈です。
今ここに團十郎や鬼は外 其角
團十郎どんだけ無敵なんだ…!というところですが、團十郎を見たうれしさ、舞台の上の姿のすがすがしさ頼もしさがありありと伝わってくるようです。
このように存在そのもので人々を喜ばすというのは決してどなたにでもできることではなく、芝居がうまいかどうかというような基準ではとても測れない、人そのもののパワーが必要かと思います。カリスマ性、スター性といった言葉にも置き換わるかもしれません。
出典: The Metropolitan Museum of Art. Self-Portrait of Danjuro VII in a Shibaraku Performance パブリックドメイン
團十郎の名跡については新之助→海老蔵→團十郎の順に襲名するのが習いのようなイメージもあるかもしれませんが、必ずそうでなければならないというわけではありませんで、代々の團十郎それぞれにさまざまな変遷があります。
團十郎といえば隈取のヒーローというイメージも強いものですけれども、これについても代々の團十郎それぞれにさまざまな芸域を持っています。
これまで十二人の團十郎がいたわけですが、どの方も非常にドラマチックな人生を歩まれていて大変興味深いものです!さまざまな書籍がありますので、書店に出かけられる日々が戻りましたらぜひお手に取ってみてくださいませ!
参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎 家・人・芸/歌舞伎俳優名跡便覧