いまだ劇場の幕は開きませんが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
近ごろブログで中村仲蔵、中村仲蔵としつこく申しており、このままではずっと語り続けそうですので、ひとつ仲蔵がらみの大大大好きな本をご紹介して締めくくりとしたいと思いました。
歌舞伎だけでなく落語、講談、すべてが奥行をもって感じられるはずの本であります。
未読の方にとって、何らかのお役に立てればうれしく思います!
松井今朝子「仲蔵狂乱」
その本というのは、大ファンであります松井今朝子先生の小説「仲蔵狂乱」
1998年に単行本刊行、第8回時代小説大賞を受賞された名作です。
この小説は初代中村仲蔵の波乱万丈な生涯を描いた、非常に熱い作品。
2000年に團十郎さんと新之助時代の海老蔵さんが親子が仲蔵をお勤めになりドラマ化されたそうで、非常に気にはなっているのですが、あまりにもこの小説世界が好きすぎて拝見できないまま今に至ります。
仲蔵の子役時代から、再び芸に目覚めて稲荷町からの下積み、凄惨ないじめ、そして定九郎という役に出会い大出世して、老年期に至るまでが濃厚に描かれ、時には仲蔵に手を差し伸べ引き上げる者がいたり、反対に足を引っ張り突き落とす者がいたりと、明日もわからない状況においてひたすら芸に向き合い続ける姿に胸が熱くなります。
個人的に特に胸を打たれたのは、仲蔵が最後まで「仲蔵」の名跡を改めようとはしない、その思いでありました。
現在、仲蔵の名跡は空席になっていますが、どなたか名乗る方が出ないとも限らないわけですから、初代が思いを貫き守り通して残った名跡が復活し、再び舞台の上で命が吹き込まれることを想像しただけでもワクワクします。泣きそうです。
松井今朝子先生は松竹株式会社にて歌舞伎の企画・制作に携わられ、独立後も歌舞伎の脚色や演出などを手掛けられた経歴をお持ちです。歌舞伎界を描いた小説・漫画などはたくさんありますが、先生ほど造詣が深く描写が緻密かつ確かな作り手はいないのではないでしょうか。
ただでさえおもしろい松井今朝子先生の物語に確かな情報の裏付けが加わることでますます立体的になり、江戸時代の芝居の世界が自分自身の目の前にあるかのように感じられ、VR体験さながらの尋常ならざる没入感を味わえるのだと思います。たまりません。
「仲蔵狂乱」は圧倒的情報量でありながら非常に読みやすい小説ですので、歌舞伎ファンの方にはもちろん近ごろ歌舞伎に興味を持ち始めたばかりという方、また落語の「中村仲蔵」がお好きな方にも、ぜひにとおすすめしたく思います!
それはそうと松井今朝子先生といえば、初代團十郎一代記の新刊「江戸の夢びらき」が4月に刊行されたばかりです!
当初は團十郎襲名披露に合わせてタイミングよく読もうと考えておりましたが、延期になりいつになるか見通しが立ちませんし、読むのがあまりにも楽しみで待ちきれませんので、いっそフライングしてしまおうかなと目論んでおります…!
読了した暁にはまた改めてご紹介したいと思います!