昨日の金曜日からいよいよ県境を超えた移動が解除され、人々の動きが活発化していますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
このすえひろはといえば近所の商業施設に出かけて久しぶりに人ごみに揺られ、へとへとに疲れ果ててしまいました。人との距離を保たねばならない緊張感と、それでもなお沸き上がる己の消費欲求との闘いといったところでしょうか。
行動範囲は少しばかり広がりましたが、自粛のころの生活パターンがなかなか抜けずに読書を進めております。
そんななかからおもしろかったものやお役に立ちそうなものを、備忘録を兼ねてご紹介します。何らかのお役に立てればうれしく思います!
「歌舞伎の見方」 渡辺 保 著
今日は、言わずと知れた演劇評論家の渡辺保先生の2009年のご本を…
歌舞伎を見始めたばかりのころに読み、歌舞伎の見れない今だからこそ読みかえしたくなり久しぶりに手にしたものです。
保先生のご著書は歌舞伎そのものをテーマとしたものや、役者・演目に焦点を当てたものなど多岐にわたり、専門的なものも多いのですが、この本は「エッセイ風の入門書」という比較的珍しい部類のもの。2009年発行の角川選書です。
具体的には数々の歌舞伎の代表的演目を取り上げながら、演出にまつわる用語や型の解説がなされ、そこに名優の芝居の思い出など保先生ご自身の個人的体験が織り交ぜられた一冊。
前書きに
私が本当にたのしいと思っているポイントについて自由に書きたい。
今まで私はそういう自分の好みについて赤裸々に告白してこなかった。
できるだけ客観的でありたいと思ってきたからである。
とあるように、他のご著書よりも感覚的・感情的な視点を多く盛り込んで語られていることが特徴です。
ご参考までにそれぞれの章で取り上げられている演目をご紹介しますと…
一、寿曽我対面、暫、勧進帳、助六由縁江戸桜
二、菅原伝授手習鑑、義経千本桜、仮名手本忠臣蔵
三、新薄雪物語、楼門五三桐、心中天網島、忍夜恋曲者、隅田川続俤、京鹿子娘道成寺、鑑獅子
四、一谷嫩軍記、近江源氏先陣館、妹背山婦女庭訓、本朝廿四孝、鬼一法眼三略巻、摂州合邦辻、伽羅先代萩、加賀見山旧錦絵
五、夏祭浪花鑑、東海道四谷怪談、南総里見八犬伝、伊勢音頭恋寝刃、五大力恋緘、御存知鈴ヶ森
六、与話情浮名横櫛、弁天娘女男白浪、雪暮夜入谷畦道、籠鶴瓶花街酔醒
というもの。
歌舞伎をご覧になったことのない方でも、必ず一つはご存知の演目があるのではないかと思われる超王道ラインナップであります!
これだけの数の演目の、保先生の個人的エピソードを読めるというのはなんともたまらぬ一冊です。それぞれの演目において保先生ご自身が体験された名演についても詳細に記されていて、名優たちがまさに目の前で芝居をしているのかのように感じられます。
そして保先生といえばクールにズバリと切り込む劇評でも人気かと思いますが、この書籍でも特におもしろいのは各章の一行目のズバリ感で、例えば「勧進帳」の章では、
「勧進帳」のどこが面白いのだろうか。
からスタートします。この一行目からはじまり、保先生が「音」「形」「ドラマ」「型」そして「舞踊」へと勧進帳の面白さを深めていくさまが語られていくのであります。
こうして数々の演目について読んでいき、あとがきまで至ると、歌舞伎の劇場という空間のあまりの豊かさ、ロマンに心が震えるようです。
多くの芝居好きの方々と同様このすえひろも保先生の大ファンでして、特に冷静沈着な筆致の中に独特の圧倒的なロマンが香っているところが大好きなのですが、その「ロマン」の部分がどういった視点から生まれているのか、大きく納得させられる一冊でした。
そしてそれ自体が自分自身にとっては、ほかの演劇ではなく絶対に歌舞伎でなければならないポイントでもあり、歌舞伎を好きになることができたよろこびを改めて噛みしめました。
劇場へ出かけられない今であるからこそ、切におすすめしたい一冊です!!
保先生といえば、毎月個人サイトにて芝居の劇評を公開されていることでも有名です。
今年のはじめにご病気をなさったそうでしたが、三月にはまさかのyoutube芝居動画の劇評が公開され、衝撃を受けるとともにうれしさでいっぱいになりました。
一日も早く芝居が再開され、また保先生の劇評を読むことができる日を心待ちにしております。