先日いよいよ開幕した八月花形歌舞伎!待ちに待った再開であります!第三部で上演中の「吉野山」について、少しばかりお話してみます。
感染予防の観点から今回は筋書の販売が行われず、簡易版の配布のみになっていましたので、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てればうれしく思います。
そもそもどういう状況?
吉野山(よしのやま)は、三大狂言に数えられる義経千本桜の四段目にあたる道行の場面「道行初音旅」が、様々なアレンジを経て歌舞伎舞踊化されたもの。とにかく上演頻度が高く、繰り返し繰り返し上演されている人気の歌舞伎舞踊です。
舞踊の主な登場人物は、源義経の愛妾・静御前と源義経の忠臣・佐藤忠信(実は狐)。
舞台上の流れを本当に簡単に言ってしまいますと「静御前と忠信(実は狐)が吉野山の山中を旅をしているところに逸見藤太(はやみのとうた)という敵が乱入してくるが、華麗にやっつけて山へ入る」というものです。
乱暴にまとめてしまいましたが、その裏側にはいろいろな物語の要素があります。
今月もそうであるようにいきなりこの演目のみご覧になることも多いため、そもそもこの演目はどういった前提のうえにあるのかということをざっくりとお話したいと思います。
時代背景は平安末期。源平合戦で平家を滅ぼす大活躍をした源義経が、さまざまな疑いや家臣のミスによって兄・頼朝から疎まれてしまって、都を明け渡して奈良の吉野山へ落ち延びた…というタイミングです。
義経は都を去る前、愛妾の静御前のお供に佐藤忠信を任命、さらに静御前に「初音の鼓」なる宝物を授けていました。これは桓武天皇の御代から雨乞いに用いられ宮中に伝わる大切な品で、神通力を得て1000年も生きたオスとメスの狐の皮で作ったといういわれがあるものです。
初音の鼓に使われた狐の夫婦には、子供がおりました。子狐は両親の皮で作られた初音の鼓を慕い、親への愛情や親孝行ができなかった情けなさに動かされ、どうにかそばにいきたい…!という一心なのであります。初音の鼓は宮中から義経の元へ、さらに静御前の手に渡ったので、ぐっと近づきやすいものになっています。
そして子狐は、なんと義経の忠臣である佐藤忠信に化けることに。狐であることを悟られないまま初音の鼓をもつ静御前のお供をすることに成功、吉野山を旅している…という状況なのであります。
義経が静御前に初音の鼓を授ける場面は「鳥居前」
子ぎつねの正体が明らかになる場面は「川連法眼館(四の切)」
で描かれます。どちらも上演頻度の高い演目ですので、上演の際にはぜひチェックなさってみてください。
参考文献:新版歌舞伎事典/ブリタニカ国際大百科事典/舞踊名作事典/日本舞踊曲集成/松竹歌舞伎検定公式テキスト