歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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第一部を見てきました!2021年2月

いよいよ新型コロナウイルスのワクチン接種が始まったそうですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。このすえひろはおかげさまで日々健康に過ごしております。

ワクチンを接種してもしばらくはマスクの欠かせない日々が続くそうですけれども、状況は着々と前に進んでいるようです。

ロビーがざわざわと賑わい、大向こうの方の声が聞こえ、一幕見席で芝居見物のできる日が、一日も早く訪れることを夢見ています。幕間の客席でお弁当が食べたいです。

先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして第一部を拝見してまいりました。

備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。

「泥棒と若殿」がたまらない

第一部は、魁春さんが八重垣姫をお勤めになる「本朝二十四孝」と、松緑さんと巳之助さんの「泥棒と若殿」の二本立てです。少女の一途な恋心を描く古典狂言と、男性だけが登場する昭和期の人情劇という対照的な狂言立てで、変化を楽しむことができました。

 

「本朝二十四孝」は以前歌右衛門さんの記録映画を拝見した記憶がありそれをおぼろげに思い起こしながらの見物でありましたが、ひとつひとつじっくりと拝見してみますと、八重垣姫の挙動と感情の振れ幅で本当に10代女子の情緒不安定な感じが表現されているんだなあと感心いたしました。

例えるならつんく♂さんの歌詞に出てくる女の子のようとでも申しましょうか…。つんく♂さんの歌詞では、今日のこと、学校のこと、近所のこと、好きな人への思い、世界平和、地球の未来…という規模の全く違う話題が一曲のなかでくるくる移り変わっていくことが多いのですが、それは一見不自然なようでありながら10代の心理表現としてなんとも的を射ているなと感じるのです。

歌舞伎との大きな違いはその世界を演じたり歌ったりしているのが女性アイドルではなくて、70代の成人男性であるという点であって、代々練り上げられた型とそれをお勤めになる役者さんというのは本当にすごいなとつくづく思います。

 

「泥棒と若殿」は、お家騒動に巻き込まれておんぼろな家にひとり幽閉されているさむらいの信さんのもとに、伝九郎という泥棒が強盗に入るのだが、信さんがあまりにすさんだ暮らしをしているので不憫に思い、世話を焼いているうちにいつのまにやら同居してしまい、心の絆が生まれるという話です。もとは山本周五郎の小説で時代劇にもなっていますので、御存知の方も多い作品かと思います。

 

松緑さんがお勤めになる世話好きの伝九郎がなんとも愛らしくて、巳之助さんの信さんも若殿らしく上品でやわらかで、ほのぼのとした気持ちになりました。であるだけに結末が悲しく、お二人のようすから家族とも友情ともつかない名前のない関係がとても自然に感じられ、心震えました。

ちょっと正確なセリフは失念してしまったのですが「信さんのことを待っている人がたくさんいるんだね…」というような伝九郎のひとことが胸に迫りました。悲しさや寂しさ、諦めだけではなく、信さんとの友情に対する誇らしさのようなものも感じられたからでしょうか。こういった近代の義理人情の物語が本当に好きなので、ぜひたくさん上演していただきたいなあと切望しています。

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