歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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国立劇場 11月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』を見てきました! 2021年11月

徐々に空気が乾燥してきたようですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、手指の乾燥に悩んでおります。爪のピンクの部分がようやく伸びてきたところなので乾燥で後退させてしまうのが惜しく、必死に保湿を心掛けております。

さて、先日のお話ですが、国立劇場へ出かけまして11月歌舞伎公演『一谷嫩軍記』を拝見してまいりました!備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。

50年ぶりの御影浜浜辺の場

11月歌舞伎公演は「一谷嫩軍記」。源平合戦の世界を舞台に、「一枝を伐らば一指(一子)を伐るべし」という主君義経からのメッセージを受けた熊谷次郎直実の苦悩と、彼の家庭に起こる悲劇を描いた名作です。

熊谷次郎直実は芝翫さん、妻の相模は孝太郎さん、義経は錦之助さん、藤の方は児太郎さん、宗清は鴈治郎さんという配役でした。

 

今回はお馴染みの熊谷陣屋の場面の序幕として、「御影浜浜辺の場」が上演されました。50年ぶりの上演という非常に貴重な機会です。

この場面のおかげで藤の方が敦盛の死を知った経緯、弥陀六が熊谷陣屋に向かった事情がよくわかりました。児太郎さんの藤の方の高貴さが輝いていたなあと思い出されます。

お百姓さんたちがコミカルなやりとりを繰り広げる愉快なくだりが想像以上に多く、たのしく拝見して大いに笑いました。寿治郎さんの庄屋どんがたまらなかったです。ただそこにいるだけでこの地域の人間関係が浮かぶようでした。

この場面はこの場面で非常に楽しいのですが、「熊谷陣屋」の緊張感と悲壮感を最大限演出しようと考えた場合、上演頻度が下がってしまったのも仕方がないのかもしれません。悲しい場面の前にはコミカルな場面が置かれているという浄瑠璃あるあるは、悲愴しかないかのような熊谷陣屋においてもそうだったのだなという発見がありました。

 

芝翫さんの熊谷はもちろん貴重な芝翫型での上演です。拝見するのは襲名披露以来でしたので、お顔があんなに赤かったんだなと改めて驚きました。浮世絵から飛び出してきたような、文楽のお人形そのもののようなお姿が見事でした。

調べておらず、芝翫型にあるものなのか、芝翫さん独自の工夫なのかはわからないのですが、熊谷が小次郎の首を相模に渡す際、相模の肩をつかんでグッと抱きよせていました。型としての正しさは私にはわかりませんが、本当に文楽のお人形のようなビジュアルとは裏腹の現代的な動きで、熊谷の思いがリアルに伝わってきて胸打たれました。

 

また今回は劇場ロビーで過去使用された制札が飾られていましたので、しっかりと拝見してまいりました。全文の読みと訳の注釈がついていてなるほどと思いました。

ひと枝を切れば指一本を切るというのには、「天永年間に紅葉を折った者が罰せられた例にならい」という前置きがついていたと初めて認識しました。ここにも一子を斬ることへの含みがあるのでしょうか。気になるところです。

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