ただいま歌舞伎座で上演中の四月大歌舞伎!
第一部で上演されている「天一坊大岡政談」は、幕末から明治期に活躍した名作者・河竹黙阿弥の作品です。今月は大岡越前守を松緑さん、天一坊を猿之助さん、山内伊賀亮を愛之助さんがお勤めになっています。
比較的上演頻度の低い演目であるため、貴重な今月の上演にちなみ、少しばかりお話してみたいと思います。芝居見物やテレビ放送、配信などの際、何らかのお役に立つことができればうれしく思います。
元は講談の人気作
天一坊大岡政談(てんいちぼうおおおかせいだん)は、幕末から明治期に活躍した名作者・河竹黙阿弥の作です。安政元年(1854)8月に江戸の河原崎座で上演された「吾嬬下五十三驛」を先行作とし、維新後の明治8年(1875)1月東京の新富座にて上演された「扇音々大岡政談」が評判となって今に至ります。
講談一席読切 天一坊実は観音流弟子法策 市川左団次 国立国会図書館
初演の際は天一坊に五代目菊五郎、大岡越前守に五代目彦三郎、山内伊賀亮に初代左團次という配役で、当時のスターが揃っていました。しかし評判を呼んだのはそれだけが理由ではありません。
この演目が、幕末から明治に活躍した講談師の初代神田伯山(かんだはくざん)が得意としていた講談「大岡政談天一坊」を題材としていたからです。「伯山は天一坊で蔵をたて」と川柳が読まれるほどの、伝説的マスターピースであったようですよ。
神田伯山といえば現在六代目が大変ご活躍ですので、現代人にもお馴染みの名前になっていますね。天一坊の評判で蔵が建つほどであったということ、初代の芸が伯山の名跡をいかに大きくしたかがわかります。チャンスがあれば当代の天一坊もぜひ生で拝聴してみたいです。
江戸時代から明治にかけての講談というのは、歌舞伎と同じように当時のニュースメディア的な役割もあったようで、歴史上の物語を語るだけでなく、心中や犯罪などの市井に起こった実際の事件を人々に伝えていました。
この「天一坊大岡政談」も、実際に起こったある大事件が題材となっています。その事件については、また次回お話いたします。
参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎手帖/日本大百科事典/立命館大学