歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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四月をふりかえり… 2022年

早いもので四月ももう終わり…

今月は仁左衛門さんと玉三郎さんによる「ぢいさんばあさん」を12年ぶりに拝見でき夢心地でした。芝居に加えて桜姫東文章のシネマ歌舞伎もあり、ニザ玉で忙しいひと月でした…。こんな忙しさならば、一生続いてほしいと思います。

変わったのは姿かたちだけ

今月の「ぢいさんばあさん」は上演時間のすべてが尊く、人生について、幸せについて、愛について、深く考えさせられた濃厚な体験でした…。私はしょっちゅう芝居で泣いていますが、今回の泣き方はちょっと自分でも驚くほどで、今後の人生観に影響しそうな予感がひしひしとしています。それはもちろん戯曲の素晴らしさだけでなく、仁左衛門さんと玉三郎さんの醸し出す空気あってのものと確信しています。

 

仁左衛門さんと玉三郎さんの伊織とるんは、若夫婦と老夫婦で変わったことが本当にセリフの通り「姿かたちだけ」なことがすごいなあと思います。若かったころの二人、離れ離れになって37年間を過ごした二人、そして今の二人が、層になって見えてくるようでした。

再会した伊織とるんが、詫びを述べあったのちにふと無言で見つめ合う会話のない視線のやりとりで、いかに二人が離れていても互いを思いやってきたか感じ取ることができ、37年間のあいだの苦労がしのばれました。だからこそ「互いの苦労はもう言うまい」というセリフに救われ、涙が止まらなくなりました。

 

仁左衛門さんの伊織が非常に感情豊かであることも、涙が堪えられなくなった理由の一つであろうと思います。るんが坊にお父様は京に行かれるのだよと言い聞かせているとき、また、坊が生きていれば37歳と聞いた後の「男盛りだなあ」というセリフで、本当に目がうるんでいるように見えるのですよね。伊織とるんに似てすらりとした男盛りの坊の姿が、想像できるようでした。思わず下嶋を斬ってしまう場面でも、短気であったころの伊織が現れる瞬間が見え、その場にはいないるんの存在が浮かんでくるようで、とにかく圧巻でした…。

 

「ぢいさんばあさん」は「鴛鴦の賦」という外題で上演されていたこともあったそうで、こちらの方が良いのではないかなと思ったこともありましたが、幕切れのお二人を見ているとやはりこれは「ぢいさんばあさん」なのだなあと腑に落ちました。

客観的には仲の良いぢいさんとばあさんでしかない二人であるからこそ、37年間の別れの物語が沁みると申しますか。若者からは想像もつかないような底知れぬ過去を持つご老人という存在を、端的に表した良い題名だと考えを改めました。

 

仁左衛門さんは三月に体調不良で一週間ほど休演をなさっていたので、今月もご出演ということを大変心配しておりましたが、千穐楽まですべての舞台をお勤めになり、またとてもお元気そうに見え、非常に安心した次第です。

仁左衛門さんがお元気であることが何よりのよろこびであり、活力です。六月も玉三郎さんとの切られ与三を拝見できるとあって、ありがたさのあまり脳が処理しきれずどうにかなってしまいそうです。

六月の与三郎の衣裳はかなり軽そうですので、体へのご負担は少しは少なく済むのでしょうか…。これは私の素人考えでわかりませんけれども、どうか五月はゆっくりとお休みいただきたいですね。そして六月にまたお健やかなお姿を拝見できますことを願っております。

 

さて、来月はどんな芝居が待っているのでしょうか…

楽しみに今夜は休みたいと思います。おやすみなさいませ。

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