信じがたい出来事が起こり、世の中がざわざわとしていますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。
このすえひろはといえば、ちょうど歌舞伎座の幕間に事件の発生を知りまして、現実と思えずとてもうろたえました。心よりお悔み申し上げます。あふれる恐ろしい情報から距離を保ちながら過ごしたいと思うとき、エンターテインメントの世界に救われました。ありがたい限りです。
先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして七月大歌舞伎の第一部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。
憧れのかぶき馬
第一部の演目は「通し狂言 當世流小栗判官」。三代目の猿之助(現・猿翁)さんが昭和58年に復活狂言として上演した澤瀉屋ゆかりの演目です。
主な配役は小栗判官・浪七に猿之助さん、照手姫に笑也さん、遊行上人に歌六さん、横山大膳に猿弥さんというもので、人気花形の巳之助さんや右近さんが二役をお勤めになり客席の温まりを感じました。平日にも関わらず客席がぎっしりでわくわくいたしました。やはりにぎにぎしい客席は良いですね。
仕掛けあり笑いあり、とにかく次々に視覚的刺激が飛び出して、通し狂言ですが最後まで集中して楽しく拝見することができました。特に巳之助さんの矢橋の橋蔵がおもしろかったです。おかしみは存分にありながらも、決してくどくはないラインでアドリブをスッと終えられるところが好きです。とてもカッコいいなと思います。
私自身はスーパー歌舞伎Ⅱのオグリの方を先に拝見して全容を捉えきれていなかったため、古典の色が濃くなることでなるほど小栗判官の物語の大筋はこういったものだったのかと腑に落ち、面白さを感じました。特に熊野の快癒のシーンでの歌六さんの遊興上人の尊さが印象深く、熊野詣の説話としての小栗判官の存在を色濃く感じた次第です。
余談ですが、小栗判官が暴れ馬を手なずけて碁盤の上に乗るシーンで、舞台上を走り回って人々を翻弄する馬のかわいさに見入ってしまいました。ふすまを突き破ったり、プイッとしたり、元気なようすが愛らしかったです。歌舞伎の馬は一度中に入って動かしてみたい憧れの存在です。一方で、小栗判官と照手姫が乗った宙乗りの馬にはリアリティがあり、それはそれで興奮しました。馬好きの方も必見です。