歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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本日千穐楽 歌舞伎座 秀山祭九月大歌舞伎 2022年9月

本日27日は歌舞伎座で上演されていた秀山祭九月歌舞伎の千穐楽でしたね!おめでとうございます! 

由良之助の孤独にときめく

本日はこのすえひろも歌舞伎座へ出かけまして第三部を拝見してまいりました。千穐楽の歌舞伎座へ出かけるのは数か月ぶりでした。

まずは「七段目」、仁左衛門さんの由良之助に酔いしれました…。何度拝見してもたまりません。おかるのかんざしを自分の髷に刺すしぐさや、酔ってよろめいたときの柔らかな動き、これ!と力弥を叱る瞬間、いろいろな高たまらん度シーンが残像になっています。

 

お客に楽しい夜を提供すべくひたすらに浮かれ騒ぐ一力茶屋の人々のなかで、仁左衛門さんの由良之助がひとり胸の内に抱えている本心。それが悲哀にも見え、なんともいえず色っぽいのですよね。松嶋屋の演出では囃子言葉に合わせた随所随所の太鼓の音が特徴的に聞こえ、一力茶屋がにぎやかであればあるほど、由良之助の孤独が際立ちます。

幕切れの九太夫を罵倒するシーンもただ怒っているのではなく、大きな無念と悲しみが痛いほど伝わり、涙がこぼれました。祇園町での大石内蔵助はどんな葛藤を抱えていたのだろうかと想像が膨らむ由良之助でした。

 

海老蔵さんの平右衛門は初日から中日辺りまではちょっと心配なようすが続きましたが、後半になるにつれぐっと見ごたえが増していったように思います。

平右衛門は小身者ではありますが町人ではありませんし、七段目は人情話でもないと思うのですが、平右衛門がおかるの兄には見えてきました。連日拝見していると、雀右衛門さんがおかるを演じながら平右衛門を導き、引き上げていったように見受けられました。雀右衛門さんは自分はすごいんだぞというムードを全く出さない方であるからこそ、底知れぬパワーを感じた次第です。

ともあれ私は専門家ではありませんので、歌舞伎として何が正しいのか語れる立場にありません。それはご了承いただいたうえで、いち個人の感覚としてお読みいただければ幸いです。

 

続く「藤戸」も本当に素晴らしい舞台でした…。以前の感想で花道の引っ込みのことばかり書いてしまいましたが、すべては前シテあればこそです。

生まれた赤ちゃんがすくすくと育ち、立派な漁夫となる姿、子に絶え間なく愛情を注ぐ母親の姿がありありと浮かびました。不在によって子の存在がいきいきと立ち上り、失った無念がいっそう胸に迫りました。

菊之助さんはもちろんのこと、母藤波、藤戸の悪龍それぞれを受け止める又五郎さんの盛綱の大きさも素晴らしかったです。情の深さ、誠実さに泣かされ、幕切れは万雷の拍手の中でしばし放心しました。

そして丑之助さんの体幹の強さにも圧倒されました。今おいくつですか…。軸のぶれない素晴らしい体幹をお持ちで将来が楽しみすぎます。

 

今月は定額制のおかげでいつもの月とは比較にならないほどたくさん歌舞伎座へ足を運びましたので、千穐楽を迎え寂しい思いでいっぱいです。しかしながら、新型コロナによる上演中止などが発生することなくこの日を迎えられたことは本当にうれしく思います。吉右衛門さんの大切な追善興行ですから、御出演の方々にとっては万感の思いであったのではないでしょうか。

今月は舞台の上に吉右衛門さんのおもかげを探し続けるひと月でした。今なおどこかで、きっと来年の秀山祭はお出ましになるのだろうと思っている自分がいます。できることならこんな気持ちのままでいたいと思いますが、いつまでいられるでしょうか。

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