歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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十三代目 市川團十郎白猿襲名披露 八代目 市川新之助初舞台 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部を見てきました!2022年

早くも11月下旬に突入いたしましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、昨晩Mー1グランプリの準決勝出場者の報に触れ、一喜一憂していたところです。歌舞伎の世界のほかにもさまざまな世界に悲喜こもごもありますね。芸事に人生をかける方々を応援したい気持ちを新たにしました。

さて、先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして十三代目 市川團十郎白猿襲名披露 八代目 市川新之助初舞台 吉例顔見世大歌舞伎の夜の部を拝見してまいりました!備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。

また当代の名跡のうち「白猿」という部分についてはちょっとどのように使われるのかメディアによってまだまちまちのようですので、このブログでは團十郎と表記いたします。何卒ご了承くださいませ。

平成の三之助の助六

夜の部は「矢の根」「口上」「助六由縁江戸桜」という狂言立てでした。

矢の根」は、祝祭的でシンプルな一幕。なんともおおらかでツッコミどころに溢れていておもしろいですよね。冷静に考えるとなんだそれはという内容なのに、理屈抜きに圧倒させてしまう歌舞伎のおもしろみが詰まっているなと感じます。

今回は幸四郎さんが曽我五郎、巳之助さんが曽我十郎という配役。幸四郎さんの五郎は床が抜けそうなほど力強く圧倒されました。先日昼下がりのワイドショーで幸四郎さんの矢の根の映像に團十郎のテロップが入っているのを目撃しました。これは大きな誤りで問題ではあるものの、編集スタッフの方々を勘違いさせるほどにくまどりや荒事の衣裳がマッチしているのだろうなとも思います。お声といい、芸域の拡がりに年々驚かされます。

 

続く「口上」は、團十郎さん新之助さん襲名披露のお祝い口上。白鸚さん、梅玉さん、菊五郎さん、仁左衛門さん、左團次さん、團十郎さん、新之助さんという順番でした(玉三郎さんの口上は後日拝見します)。厳しさや笑いのなかにもみなさんそれぞれに大切にしてこられた十二代の思い出が見て取れ、愛を感じるものでした。

團十郎襲名の口上としてはさびしく見えるという見方もありますが、十二代とともに歌舞伎界を牽引してこられた精鋭の大先輩に囲まれての口上というのは、何か荘厳でもあります。平成の三之助と呼ばれた菊之助さんや松緑さんの口上もぜひお聞きしたかったところですが、これはきっとねらいのあることと思います。

 

配信とあわせると3回拝見したのですが、初日に比べるとみなさま徐々にほぐれ、優しさが滲んできているような印象を受けます。特に梅玉さんの口上はどの回も少しずつ違っていて、夏雄さんへのあふれる思いを感じます。新之助さんについてはかわいい→大好き→抱きしめたいに変化していてほっこりしました。

話題になっているらしい白鸚さんの「先輩の教えを聞き、同輩と芸を磨き、後輩に愛を持って(意訳)」という言葉は、厳しいようで深い愛を感じます。どうかそのように他の役者さん達との一体感が生まれ、歌舞伎界が盛り上がりますようにと願うばかりです。

 

最後の「助六由縁江戸桜」は、團十郎さんの襲名披露狂言。主に菊之助さんの揚巻、松緑さんの意休、梅玉さんの白酒売、新之助さんの福山かつぎという配役でした。

私が拝見した日の團十郎さんの助六は両日とも圧巻でした。用意していた理屈が吹き飛び、助六はなんと良い男なのだろうと素直に酔いしれました。過去拝見したなかで、持ち前の尖った魅力そのもので魅せていた時期、そして少し角が取れて丸くなられた時期があったと記憶しています。今月の襲名披露ではその味わいがまた変化し、尖りも丸みもご本人のコントロール下に入ってきたような印象でした。これからますます良い助六を見せてくださる予感がし、とても楽しみです。

 

菊之助さんの揚巻と松緑さんの意休も魅力が際立っていて、皆様それぞれに味わい深かったです。とくに松緑さんの意休は想像を超えた貫録でした。

配役が発表された時には正直なところ、先輩方との共演も見たい、左團次さんの意休も見たい、などと思ってしまったのですが、新時代の幕開けを感じさせるようなねらいがあってのことだったのだろうなと考えを改めました。みなさまそれぞれ違う速度で芸を深めておられるのであって、結論を急ぎすぎていたと反省しています。これからさらに長い年月をかけて重みが増していくところを目撃できるというのは大きな希望です。

梅玉さんの白酒売や、仁左衛門さんのくわんぺら門兵衛、又五郎さんの朝顔仙平はさすがのおもしろさでした。ただふざけているのではなく、品があり。芝居全体が引き締まって見えました。新之助さんの福山かつぎも見事でした!

 

また、助六の出端、團十郎さんがグッと斜め上を見上げた瞬間に、二階の西桟敷の御婦人方がハッと色めき立っているのを目撃して、なんともうれしくなりました。人が恋に落ちる瞬間を見たような感覚と申しますか。團十郎さんからはお父様ゆずりの圧倒的な輝きと、お父様とはまた違った危うさが放たれていて、あの位置からご覧になっていたらそれはもう惚れてしまうだろうなと。吉原一の色男である助六を体現していらして、時間が止まったかのように感じられました。

 

余談ですが、開演前に近くの御婦人方とお話いたしました。なんでも、十一代の頃からご覧になっていらして、なんとしてもこの場に立ち会いたいその一心で、様々な事情を押してお出かけになったとのこと。80代の半ばを過ぎておいでであり、延期が決まったときには本当に不安で、こうしてこの場にいられるだけで幸せだとのことでした。格別の期待と思い入れを感じるお話ぶりで、團十郎襲名の特別さを実感した次第です。

様々な見方があるにせよ、稀有な方であることは確かであり、私自身は心から今後のご活躍に期待しています。この襲名披露の思い出を残像にして、先々まで大切にしていきたいと思います。どうにか新之助さんの團十郎襲名まで生きられないかなあと思いはじめたところです。30代ですが、この先の見えない世の中では厳しいでしょうか…。生きられますように。

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