歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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新春浅草歌舞伎 第二部「傾城反魂香」「連獅子」を見てきました!2023年

みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、

さて、先日のお話ですが、浅草公会堂へ出かけまして新春浅草歌舞伎の第二部を拝見してまいりました!備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。

   

若手花形役者の方々の登竜門・新春浅草歌舞伎。新型コロナ感染拡大や補修工事の影響などにより3年ぶりの上演です。今回も松也さんを中心とした20~30代の役者さんたちがご出演でした。このお顔ぶれでの新春浅草歌舞伎も長くなりましたね。ブランクがあったからこそ今回みなさまそれぞれの芸道の飛躍が垣間見え、同世代としてともに歳を重ねていけることを喜ばしく思いました。

第二部は「傾城反魂香」「連獅子」という狂言立てでした。

傾城反魂香」は、近松門左衛門の名作。生まれつきの特性が職業上のハンデとなりもがき苦しむ夫と、それを支える妻の心温まるドラマです。近年大変上演頻度が高いので、様々な配役で見る機会が多かった演目ですね。

今回は主役の浮世又平を歌昇さんが、妻のおとくを種之助さんがお勤めになりました。実のご兄弟です。歌昇さんと種之助さんの傾城反魂香は以前双蝶会でも上演され評判であったそうですが、このすえひろはこちらを拝見しておらず、今回が初めてでした。

歌昇さんがお勤めになった又平は、その際の吉右衛門さん直伝のものとのことで、随所にその心が感じられる大変味わい深いものでした。種之助さんのおとくがぴったりと呼応して又平の苦しさが胸に迫り、なんともいえぬ愛らしさも漂い、思わずほろりといたしました。

これは歌昇さんに限らず一部・二部のみなさまに対して思ったことですが、みなさま三年の間に見違えるように芸を深められたのだなと驚き入るばかりです。やむを得ず生まれてしまったブランクが良い方向に作用して、浅草歌舞伎をより見ごたえあるものにしていたように思います。

 

そして弟弟子の修理之助を莟玉さん、狩野の雅楽之助を松也さんがお勤めになりました。莟玉さんの修理之助は何度も拝見しています。梅玉さんから「嫌な奴ではいけない」という教えがあったそうですが、本当にその通り、絵に真摯で師匠に忠実な良き弟弟子という人柄が貫かれていて見事でした。松也さんの雅楽之助は彦三郎さんの指導ということで、美声が響き渡っていましたね。彦三郎さんの雅楽之助だなとすぐにわかりました。松也さんの完コピ力には唸らされます。

 

余談ですが、改めて傾城反魂香の芝居をじっくり拝見していますと、この世界では「絵で超常現象を起こせたら昇進」というような感じに見えてきて、なんだか不思議でおもしろいなあと思いました。「絵が手水鉢を抜ける」というのも。

おそらく「画力がすごい」ということを舞台の上で視覚的にわかりやすく表現するために必要な要素だったのだろうとと思いますが、近松はじめ江戸時代の芝居関係者の発想はやはりどこか飛んでいておもしろいですね。

 

続く「連獅子」は、言わずと知れた歌舞伎舞踊の名作。親子や兄弟での共演の多い演目ですが、今回は松也さんの親獅子、莟玉さんの仔獅子という配役でした。歌舞伎座の本興行での連獅子というとどうしても襲名披露での親子共演が多くなりますから、お二人ともお勤めになる機会がなかなか限られると思います。こうして浅草で拝見できるのは大変貴重です。

宗論は歌昇さんと種之助さんがお勤めでした。お父様の又五郎さんの宗論が好きですので、楽しく拝見いたしました。

 

松也さんと莟玉さんはもちろん親子、兄弟ではなく、同門でもありませんが、驚くほどに息がピタリと合っていました。お二人ともに親子それぞれの踊り分けをきっちりとされていて、非常に見ごたえがありました。

特に前シテはそれぞれの体の使い方の違いなどがよくわかり、おもしろく拝見しました。莟玉さんのきびきびとした仔獅子があまりに可愛らしく。あんなに可愛い仔獅子を谷底になど突き落とせるでしょうか。親獅子の悠然とした大きさに愛を感じました。

 

そして毛振りの回数の多さには驚きました!客席も熱狂し、大変盛り上がっていましたね。爽やかで良い打ち出しでありました。

パンフレットを読んで驚いたのですが、松也さんが歌舞伎の舞台に立たれるのはなんと一年振りということでした。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも重要な役どころで大活躍でしたものね。ドラマやバラエティでの松也さんも魅力的ですが、やはり歌舞伎の拵えが素敵だなと思いました。今年はぜひ歌舞伎の舞台でもっとお姿を拝見したいです。

 

浅草公会堂は補修工事の際、座席に高めの柵が設けられたために、一部の座席で前売りが行われていません。柵が視界に入る座席には座りませんでしたので実際どのように見えるのかはわかりませんが、柵そのものは想像していたほどの存在感ではありませんでした。

客席の椅子が新しく綺麗になり、お手洗いやエレベーターなども新調されていたようです。心なしか壁も白くなったような気もしましたが、それは気のせいかもしれません。細部が真新しくなりますと、空間全体も生まれ変わったように冴え冴えとして見えますね。ロビーのレトロな雰囲気はそのまま残っていたことがうれしかったです。今後も末永く浅草歌舞伎が続きますように。

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