歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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昨日2月3日の歌舞伎座第三部「通し狂言 霊験亀山鉾」で

節分が過ぎいよいよ立春となりましたが、まだまだ寒いですね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、昨日2月3日に歌舞伎座第三部の「通し狂言 霊験亀山鉾」を拝見しておりまして、仁左衛門さんのごようすが大変心配になる出来事がありました。本日の舞台は変わらずお勤めになっていたようですので大丈夫だと思いますが、後の備忘録としてしたためておきたいと思います。

千穐楽までとにかくご無事で

物語の中盤。どさくさで早桶の取違があり、生きた藤田水右衛門が入っている早桶が誤って火にかけられてしまうという焼き場の場面でのこと。本水の雨が降りしきる中で八郎兵衛とおつまによる命の取り合いがあって、八郎兵衛が井戸に落ちて絶命すると、早桶がパカーンと開いて藤田水右衛門が登場するという演出があります。

 

昨日は最初、早桶の内からドンドンと叩く音だけがする場面ですでに、早桶の板が一部パラパラと外れてしまっていました。そのため、水右衛門が出てくる前に桶が全部開いてしまったらどうなるのだろうとハラハラしていました。

 

そして八郎兵衛が井戸に落ち、いざ水右衛門に拵えを変えた仁左衛門さんが早桶の下のセリから登場という段になって、若干の間があって「おろしてくれ(下げてくれだったかもしれません)」という仁左衛門さんの地声が何度か聞こえたのです。木をドンドンと叩いてようやくセリが下がると、今度は髷が引っかかってしまったように見え「上げて」というお声も聞こえました。

そこから下がったり上がったりのやり取りがややあって、ようやく水右衛門が舞台に降りてきました。この間おつまをお勤めの雀右衛門さんは慌てておいでのようにも見えましたが、空白を埋めるように舞台の空気を守っておられ、プロフェッショナルを感じました。

 

そして水右衛門がおつまを殺し、月に照らされながら殺した石井の人々を指折り数えてフハハハハと笑うシーンはゾッとするほど凄惨で仁左衛門さんのまさに真骨頂というものだったので、きっとちょっとしたトラブルだったのだろうと思っていました。

しかし、大詰で再び水右衛門が姿を現したとき、どうにも動きが変で、片足をかばっているように見えたのです。右足の膝をつくことを避けているようにお見受けしたので、なにかしらで痛めてしまったのではないかと思われました。

 

もちろんこれら一連の出来事は二階の客席から見えたことだけですから、実際のことはわかりません。一時的に起こる急な肉離れや筋違いなど、早桶の仕掛けとは無関係のアクシデントであった可能性は大いにあり得ます。

しかしながら舞台というのは本当に危険と隣り合わせで、舞台上から裏方の方々まで大変な緊張のなか、まさに命がけで取り組まれているものなのだなとつくづく実感しました。身を危険に晒しながら美しい時間を作り上げてくださっている方々への感謝の念でいっぱいになります。みなさまどうかご無事で…

 

そんなわけで、とにもかくにも心配でした。明日から休演なさるのではないかなと思い。一世一代ですから千穐楽まで悔いなく完走していただきたい思い、後々引きずる大事に至らぬようゆっくり静養していただきたい思い、相反する思いでがんじがらめになり、頭がかちわれそうでした。

SNSは普段あまり見ないのですが、今日は気がかりのあまり頻繁に検索し、休演の情報がないか、一階でご覧になった方からはどのように見えたのか、情報入手に明け暮れてしまいました。

そんなことをしているうち、自分の目で見て感じた心配が、無自覚に何倍にも膨れがっていくのですよね。こわいですね。文字情報の力というのは侮れないものです。

 

しかし本日の舞台をご覧になった方のお声を見渡しますと、どうやら今日はほとんどお変わりないごようすであったそうですね。本当に安堵いたしました…。

これまでの傾向を思いますと、ついご無理をなさっているのではと想像してしまいますが、ご本人が舞台に立たれ、お元気なようすを見せてくださっているということが全てですよね。

たくさんの情報に触れると心が乱れますけれども、ひとまずリセットして、また劇場へ元気に足を運びたいと思います。千穐楽までどうかご自身の思いのままに舞台をお勤めになれますように、ご無理のないように、と祈るばかりです。

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