はや月末ですけれども、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
このすえひろはといえば、今月は目の回るような忙しさでして、複数の物事を同時進行にて一気に進めており、仁左衛門さんの一世一代もありましたので、なんだか28日のうちに何カ月分も過ごしてしまったような感覚です。
そういったわけで、今になってじわりじわりと芝居の思い出が蘇ってきています。今月の歌舞伎座は本当におもしろかったですね。各部いい公演でした。歌舞伎好きはもちろん、初めての方にとってもおもしろい内容だったのではないかと思います。
鷹之資さんの船弁慶と歌川国芳「大物之浦平家の亡霊」
今月は第二部にて五世中村富十郎十三回忌追善狂言と銘打って、御子息の鷹之資さんによる「船弁慶」の上演がありましたね。これがまだ23歳のお若さとは信じられないほどに素晴らしい舞台で、このすえひろも定額制にて何度も拝見いたしました。
船弁慶は松羽目物ですから大道具は松の木の絵だけなのですけれども、場面場面の情景がありありと浮かぶようで、強烈な没入感がありました。
なかでも、知盛はじめ平家の武者たちの亡霊が大物浦に出現した場面で、頭の中に浮かんできた絵があります。ちょうどパブリックドメインのものがありますのでひとつご紹介したいと思います。
歌川国芳 大物之浦平家の亡霊(メトロポリタン美術館)
これはまさに「船弁慶」を題材として描かれたものです。義経と弁慶の乗る船を海底に引きずり込もうとする平家の亡霊たちが、おぼろげなシルエットで表現されています。さすが国芳という斬新な表現ですよね。当時の最先端カラーであった「ベロ藍」の青もぼかしの効果でおそろしげに仕上がっていて、素晴らしい一枚だなと思います。
私には鷹之資さんの長刀さばきが、本当にこの絵の荒波のように見えたのですよね。
昨年角川武蔵野ミュージアムで行われていた「浮世絵劇場 from PARIS」という展示で、動く浮世絵を空間全体に投影する没入感のある映像作品が上映されていたのですが、歌舞伎座そのものがまさにそういった空間に変化してしまったような感覚でした。
まだ詳しく調べていないのでわからないのですが、船弁慶の独特の長刀の動きは、もしかしたら荒れ狂う海面の表現なのだろうかと考えています。過去の名優の方々のそのような芸談がないか、追って調べてみようと思います。